前回の続きです。
1330、開場時刻になるとホワイエに通じる扉が開放され、列を作ってロビーで待機していた皆さんが、ゆっくりと進み始めます。本当にゆったりとした入場の様子がとても心地よく感じられました。
「世界の国旗国歌コンサート」と銘打つだけあって、とても美しいホワイエの壁際には、今回国歌が演奏される26カ国の国旗がズラリと並んでいます。雰囲気が華やぎますし、とても良い演出だなと思いました。
この国旗たちは、後ほど別の形で活躍することになります。
写真撮影を済ませてホールに入りましたが、まだまだ空席だらけの状態で、最前列も余裕で空いています。今回は東京音楽隊メインの演奏会ではありませんので、一瞬どうしようかなと迷いました。純粋に音楽を楽しむのであれば、15〜20列目くらいがいいのではないかと思いますが、隊員の皆さんの様子がよくわかる最前列は、やはり圧倒的に情報量が違います。東音メインではないとは言え、彼らの演奏を聴く機会は当分ありませんので、今回も最前列の席に座ることにしました。
行ってみると、先ほど外で3番目に並んでおられた女性(Yさん)を交え、先頭にいた3人で楽しそうに盛り上がっています。旧来の友人同士のように楽しそうでしたが、外で並んでいるときに知り合ったばかりなのだそうです。私が座った席がYさんと隣同士だったものですから、色々とお話を伺うことができました。愛知県から来られたとのことで、昨年5月に行われた東京音楽隊の蒲郡・名古屋公演に感激されたこと、その際、岩田有可里さんをはじめ愛知出身の隊員の方が意外と多いので驚いたことなどを楽しそうに話してくださいました。このブログのことも、何度かお読みになったことがあるとのことでした。外でお見かけした際に、何か言いたげな感じに見えたのは、ひょっとしたらそのことだったのかも知れません。
今回もまた、新たな出会いがありました。会場に足を運ぶ楽しみの一つが、こうした出会いを通じて人の輪が広がっていくことなんです。
Yさんからは、東京音楽隊に関するちょっと微笑ましいエピソードもお聞きしましたので、後ほど改めてご紹介させていただきたいと思います。
さて、演奏開始までは場内撮影も許されていましたので、誰もいないステージの様子を撮影してみました。今回は東京音楽隊の演奏会ではありませんから、いつもステージ上に飾られている隊旗はありません。グランドピアノがど真ん中に据えられていますし、椅子の配置もいつもとはかなり違いますよね。数も少なめで、今回は小規模編成での演奏になることがわかります。コントラバスやベースギターが見当たりませんので、残念ながら、岩田有可里さんの出演はないようです。
ここで、今回のプログラムを見て見ましょう。
これは、入場の際に手渡されたパンフレットの表紙です。この演奏会の予定を紹介する記事に挿入したポスターと同じデザインですね。因みに東京音楽隊が演奏したのは1400〜1600の昼の部だけです。
中央に並んでいるのが、今回国歌が演奏された国々の国旗です。左上のギリシャから始まり我が国の「君が代」まで、ここに並べられた順番に演奏されました。
内容も豊富で、コンテンツは全17ページにわたります。その多くは、出演されたアーティストの紹介記事なのですが、もちろん東京音楽隊や樋口好雄隊長のことも日本語と英語で紹介されています。
このパンフレットの5・6ページ目に今回のプログラムが掲載されています。
この演奏会は、本年夏に開催予定の東京オリンピック2020に向けた機運醸成という側面もありますので、26カ国の国歌の他に、前回(1964年)の東京オリンピックで使用されたオリンピック・ファンファーレやオリンピック・マーチ、そしてオリンピック賛歌なども盛り込まれています。
今回の演奏会の枠組みについて触れておきます。
演奏会ではありますけれど、世界の国旗国歌についての理解を深めてもらおうという趣旨で行われたもので、お二人の「主役」がいらっしゃいました。
お一人は、MCを務められた、吹浦忠正さん。
子供の頃から世界の国旗に並々ならぬご興味を持たれて独学で研究を続けられていたとのことで、早稲田大学の大学院に在学中、その独学で学ばれた知見を買われ、1964年の東京オリンピック組織委員会国旗担当専門職員に抜擢されたほどの、我が国屈指の研究者でいらっしゃいます。
吹浦さんによる、各国の国旗の解説やそれにまつわるエピソードなどの紹介を交えたプレゼンテーション風のMCがこの演奏会の縦糸でした。ユーモアを交えて会場を笑わせながら語られるお話は、どれも興味深いものばかりでしたが、時間の関係でお話を途中で切り上げられたり、省略されたりする場面が少なからずあり「あぁ、その先が聞きたいのに残念」と、何度も思いました。改めて吹浦さんの講義を聞く機会があればいいなと思います。
そして、もうお一人が、ソプラノ歌手の新藤昌子さん。
新藤さんは、オペラを中心にソプラノ歌手として、全国で年間40回ものステージをこなされる傍ら、2008年頃から「国歌」を通じた国際友好親善活動に注力され、今では100カ国以上の国歌を言語で正確に歌うことができるのだそうです。ものすごいことだと思います。外国の国歌を言語で歌うことのプレッシャーについては、昨年遠洋練習航海に参加された三宅由佳莉さんも、新聞のコラムで語っておられましたね。
今回の演奏会でも、他の歌手の皆さんは歌詞の書かれた楽譜を手に歌われていましたが、新藤さんだけは何も持たずに各国の国歌を淀みなく歌い上げておられました。各国の駐日大使館で行われる記念式典や、本国から要人が来日される折などに招かれ、それぞれの国の国歌を披露されているとのことです。このような活動を続け来られた方がいらっしゃることを知ることができたことを心から嬉しく思いました。
新藤さんが各国国歌を歌われる様子を収めた動画がNHKが公開していましたので、貼っておきます。今回の演奏会のイメージがなんとなくわかるのではないかと思います。
The Japanese soprano who has already mastered 100 national anthems says she plans to learn the full Olympic collection by the time the Tokyo Games open this summer. https://t.co/KiM6buo3uC pic.twitter.com/KY562eE4TL
— NHK WORLD News (@NHKWORLD_News) 2020年1月10日
世界の国旗研究の第一人者である吹浦忠正さんと、世界の国歌を研究し言語で歌われる新藤昌子さん、このお二人が縦横の糸としてこの演奏会の枠組みをしっかりと織り上げ、我らが東京音楽隊がそれを盤石な実力で支え切る、そんな演奏会でした。
次回に続きます。