前回の続きです。
前回は、コンサートの第1部についてご紹介しました。
15分間の休憩時間の間に、私たちは席を移動しました。最前列は確かに情報量は多いのですが、結構高さのあるステージに座席が近すぎるものですから、ステージ前縁に立って歌われる歌手の皆さんをかなり見上げる形になり、ちょっとしんどかったんです。
左脇の、ステージと同じレベルにある座席が空いていましたのでそちらに座ることにしました。そこから会場内を見渡してみると、大入りなのですが、皆さんマスクをしてらっしゃいましたし、空席も結構ありました。やはりコロナの影響で来場を見合わせた方が結構おられたということなのだと思います。前回の記事でも書きましたが、出席予定だった各国大使も軒並み欠席となったようです。
第2部
オリンピック賛歌
第2部の幕開けは、お馴染みのオリンピック賛歌です。
吹浦さんの解説では、この曲はオリンピックが近代に復活し、ギリシャのアテネで第1回大会が開催された際に演奏されたのですが、その後楽譜が紛失してしまい、以後の大会では演奏されることがなくなってしまったのだそうです。1958年、アジアで初の開催となるIOC総会を前に、ギリシャで楽譜が見つかり、開催国日本に届けられたのですが、それはピアノ用に編曲された楽譜だったため、JOCはNHKを通じて作曲家の古関裕而さんにオーケストラ用の編曲を依頼しました。
古関裕而さんと言えば「愛国の花」や「ラバウル海軍航空隊」など、このブログをお読みの皆さんにも馴染みの曲の作曲者ですし、海上自衛隊の隊歌「海を行く」も手がけられ、帝国海軍や海上自衛隊とも所縁のある大作曲家ですよね。
その古関裕而さんが改めて編曲された「オリンピック賛歌」が、東京で開催されたIOC総会の際に天皇陛下(昭和天皇)御臨席の下披露され、その素晴らしさに感動したIOCは、この古関版を公式のオリンピック賛歌として認定したのだそうです。以前から、感動的な曲だとは思っていましたが、このようなエピソードをお聞きし、日本人として大変嬉しく、また誇らしく感じました。高い評価を受けたからということよりも、ようやく見つかった楽譜を元に、オリンピックの象徴となる賛歌として復元しようと努力した姿勢を誇らしく思うのです。お聴きください。
オリンピック賛歌が吹奏される中、会場の後方2箇所の入り口から、ホワイエに並べられていた国旗が、コールアンセムの皆さんの手に握られて次々と入場して来ます。そしてステージの上に26本の国旗がずらりと並びました。壮観です。
吹浦さんから、解説がありました。「これらの国旗は、2020オリンピック東京大会で使用される本物です。オリンピックに国旗を提供する会社から「有償で」拝借しました。」…「有償で」を強調されたので、会場は思わず笑いに包まれました。とても素敵なパフォーマンスでした。
オリンピック・マーチ(1964年東京大会)
この曲も、古関裕而先生の作品です。東京音楽隊の動画がありましたのでお楽しみください。いい曲ですよね。
13 メキシコ合衆国国歌
吹浦さんの解説は思い出せないのですが、私には大変馴染みのある曲です。なぜかと言えば、昨年、練習艦隊がマサトランに入稿した際、艦上レセプションで三宅由佳莉さんが披露された両国国歌の独唱動画を編集する際に、何度となく聴き込んだからです。
懐かしさが込み上げてきました。
それにしても、こんなに長い国歌の歌詞を短期間で全部覚えて歌ったのですから、三宅由佳莉さんの努力は改めて凄いなと思います。もちろん、100曲以上を諳んじておられる新藤昌子さんの凄さはまた別格ですが(╹◡╹)
14 イスラエル国国歌
イスラエルは、第二次世界大戦後に人為的に創られた国ですし、周囲にはその建国を認めない国ばかりです。吹浦さんの解説では、そんな環境の中で、自国のイメージを明確にしようとする意思が国旗のデザインにも現れているとのことでした。中東のアラブ諸国の国旗は、デザインこそ様々ですが、赤・黒・白・緑の色合いが共通しているとのこと、言われてみればそうですね。そのような中にあって、シンプルであるにも関わらず断然目立つのがイスラエル国旗です。なるほどと思いました。
望郷のバラード
ここで、やはり友情出演してくださったヴァイオリニスト・天満敦子さんの「望郷のバラード」が披露されました。天満さんの演奏を生でお聴きするのは初めてのことでしたが、まさに引き込まれるような感覚でした。「望郷のバラード」は、天満さんの才能を絶賛するルーマニアから楽譜を託されたものだそうですが、天満さんを代表する名曲ですね。
幸いなことに、2015年に行われたコンサートの動画がYouTubeにありました!
ぜひお聴きください。
15 カナダ国歌
吹浦さんから、大変面白い解説がありました。
英連邦に属するカナダの国旗はもともとこういうデザインだったのですが、エリザベス女王を元首として頂いているとは言え、完全な独立国である以上独自の国旗を制定しようということになったそうです。
紆余曲折を経て、東西を海に囲まれ、雪の大地にメープルの葉が際立つデザインに落ち着きましたが、当初の案は海を表す色として青が用いられていました。ご存知の通り、カナダの公用語は英語とフランス語です。英国系とフランス系の住民がそれぞれ力を持っているからです。ところが、左右が青になると、フランス国旗のイメージに近くなってしまうので、英国系から反対の声が上がり、それではと赤になったのだそうです。世界広しと言えども、海を赤色で表現している旗はカナダだけだとのことでした。
国歌についても、英語とフランス語の歌詞があり、比べてみると微妙にニュアンスが違うので面白いともおっしゃってました。
前回から引き続き国歌の動画を埋め込みさせていただいている「World National Anthems JP」さんも、三種類のカナダ国歌を準備されていますが、そのうち、英語とフランス語が交互に歌われるバイリンガル版を貼っておきます。
16 ナイジェリア連邦共和国国歌
17 南アフリカ共和国国歌
吹浦さんの解説では、南アフリカ共和国の国旗も幾多の変遷を経て現在の国旗になりました。英国やオランダ系住民に支配されてきた南アフリカは、その時々の情勢を反映した国旗をいくつも制定してきましたが、長きにわたるアパルトヘイトに終止符を打つことになった自由選挙で選出されたネルソン・マンデラ氏が「レインボー・ネイション」の言葉で語った理想の国家を象徴するため、6色の虹色で国旗をデザインしたとのことです。南アフリカの国旗は「レインボー・フラッグ」と呼ばれています。日本では、虹といえば7色とされていますが、実際には無限に近い色のグラデーションであり、何色かとは特定できません。諸外国では6色と認識されている場合が多いのだそうです。最も新しい独立国である南スーダンの国旗もやはりレインボーカラーになっているとのことでした。
国歌の合唱に祭し、駐日南アフリカ大使館から、女性の三等書記官(Ms. Mabena Nokuphumla)が参加され、力強い歌唱を披露されました。ご心配もあったでしょうに、よく来てくださいました。
18 タイ王国国歌
吹浦さんの面白い解説がありました。詳しくは覚えていないのですが、タイ王国の国旗は以前は全く違うものでした。ある時、何かの式典だったか、パレードだったかの際、国王陛下が、上下逆さまに掲揚されている国旗をご覧になって憂慮され、絶対に逆さまにならない国旗を制定せよとおっしゃった、というような話だったと思います。そこで、上下対象の現在の国旗が制定されたのだそうです。
しっかりとした記憶に基づいてはおりませんし、国王陛下のお言葉を取り違えている場合には不敬に当たるかもしれませんが、そこはご容赦ください。
19 インド国歌
吹浦さんが、駐日インド大使ご夫妻のご来臨を紹介されました。各国大使が出席を見合わせるなか、確か唯一のご参加だったのではないかと記憶します。先日、インド政府による日本人向けビザの無効化について記事を書きましたが、一方でこのように日印関係を大切に考えていることをアピールもされているわけです。
さて、インドの国旗は中央部分に車輪のようなものが描かれていますが、これは紡績機の車だそうです。元々の図案は紡績機そのものが描かれていたのですが、その特徴を最もよく表している車輪部分を意匠化したようです。
さて、インド国歌ですが、この歌を独唱されたのは、なんと横須賀音楽隊の中川麻梨子さんでした。それまでの国歌でも、合唱で参加されていましたが、全くの一人舞台となったのはこのインド国歌だけです。
インド音楽独特の節回しも多く、大変難しい曲だと思うのですが、とても自然に美しく歌い上げられました。中川さんの新しい魅力が垣間見えるステージでした。
20 ジブチ共和国国歌
ジブチ共和国はアフリカのツノの根元に位置する国です。吹浦さんからは、この国が戦略的に大変重要な位置を占めていることから、各国が軍の基地を置いて活動拠点にしており、わが海上自衛隊も航空基地を開設して海賊対処活動に従事していることが紹介されました。
この国の国歌だけは「World Natonal Anthems JP」さんのチャンネルで見つけることができませんでしたので、他のチャンネルからの動画にリンクします。
ジブチ共和国の国歌にも、もちろん歌詞はあるのですが、通常、吹奏だけで歌が歌われることはないのだそうです。そこで、その習慣に習い、この曲については、吹奏のみで演奏されました。もちろん東京音楽隊の演奏です。
21 ロシア連邦国歌
吹浦さんが「ロシア連邦共和国のミハイル・ユーリエヴィチ・ガルージン駐日大使閣下、お見えになっていますでしょうか」…「あ、やはり無理だったようですね。ひょっとしたら行けるかもしれないという電話をいただいていたのですが、こういうご時勢ですから致し方ないですね」とのことでした。
ロシア国旗についての解説では、近代ロシアの礎を築かれたピョートル大帝のことが紹介されていました。大帝は、若き皇太子時代に当時の最先進国の一つであったオランダで学びました。大海洋国家オランダの造船技術を目の当たりにして、自ら造船技術を習得されたほどの進取の気概に溢れた王子だったわけですが、オランダへの憧憬が、ロシア帝国の国旗にも影響したと言われているとのことです。確かに色の順序は違いますが似ていますね。
さて、ロシア国歌ですが、ソ連邦が崩壊したことにより、ソ連国歌は廃止され、ロシア連邦国歌が制定されたのですが、やはりあの勇壮な曲を好む国民が多かったのでしょう。外国人の私たちが聴いても、曲としてのスケールが大きいですし、美しく感動的な旋律だと思いますよね。ということで、ソ連邦当時の国歌の歌詞を一部書き換えて現在のロシア連邦共和国国歌が改めて制定されたということだそうです。
実は、今回のコンサートでは駐日ロシア連邦大使館付属学校の児童・生徒の有志の皆さんが友好出演してロシア国歌の合唱に参加してくださる予定だったのだそうですが、新コロナ対策のため、日本の学校よりも先に学級閉鎖になってしまい、参加することができなくなってしまったとのことでした。残念ですが仕方ありません。
22 パキスタン国歌
パキスタンは元々インドの一部で、長く英国の植民地でした。第二次世界大戦後、英国からの独立を勝ち取ったインドですが、宗教や民族に起因する争いが絶えず、ついに西パキスタン(現パキスタン)、と東パキスタン(現バングラデシュ)がインドから分離独立することになりました。吹浦さんは国際赤十字のお仕事で東パキスタンに駐在しておられたこともあるそうです。
23 オーストラリア連邦国歌
オーストラリアも英連邦国ですから、「God Save the Queen」も国歌なのですが、それは象徴的な存在であって、実質的な国歌が「進め美しきオーストラリア」となります。ただ、私たちの耳によく馴染んでいるのは、オーストラリアの愛国歌「ワルチング・マチルダ」の方かも知れませんね。
あまり聞きなれないオーストラリア国歌ですが、美しい旋律だと思います。
24 ブラジル連邦共和国国歌
ブラジル国旗について、吹浦さんから興味深い解説がありました。国旗の中央に夜空が描かれ、南十字星が中央に位置しています。南十字星を国旗に用いている国は他にもあります。オーストラリアとニュージーランドですが、ブラジル国旗に描かれている南十字星は左右が逆転しているというのです。よく見ると確かに左右が逆です。吹浦さんによると、オーストラリアとニュージーランドは地上から見たままの構図であるのに対し、ブラジルは天球儀上の星の位置関係を図柄にしたからだそうです。つまり、向こう側から見た位置関係になっているわけです。言われてみないと絶対にわかりませんね。
25 アメリカ合衆国国歌
コンサートも大詰めが近づきます。ここでわが同盟国であるアメリカ合衆国の国歌となるのですが、吹浦さんがクイズを出されました。ご存知の通り、アメリカ合衆国の国旗は独立時の13州が赤白のストライプで表現され、現在の州の数が左上の青地の部分の星の数で表されています。吹浦さんは、二枚の合衆国国旗を表示して、どちらが現在のアメリカ合衆国国旗でしょうか、と問われました。ほとんど同じで見分けがつかず、会場の意見も真っ二つでした。
下の動画の図柄が正しいのですが、吹浦さんが示したもう一枚は、星の数が51個なのだそうです。つまり、アメリカは、次に州が増えた時のための準備をちゃんと整えているということです。そんな時が来るのかどうかもわかりませんが、やれる準備はやっておくということなのでしょうか、ちょっと驚きました。
よく耳にする合衆国国歌です。出演者総出での壮大な演奏になりましたが、この時の樋口好雄隊長の指揮ぶりは、これまで見たこともないほど躍動感に溢れ、感動的なほどでした。演奏が終わった瞬間、喝采を送りながら「カッコいい!」という言葉が口を衝いて出ました。動画に収められないことが本当に悔しかったです。
26 日本国国歌
そして、最後は我が国の国歌「君が代」です。
最初に書くのを失念していたのですが、コンサートの開始に先立ち、吹浦さんからは次のようなコメントがありました。
「本来、国歌を演奏する際には起立して威儀を正すのが礼儀というものです。ただ、今回はコンサートということでありますので、ご着席のままお聴きになられて結構です。ただし、第2部の最後に日本国国歌「君が代」を演奏いたしますので、その際は皆さんご起立の上、斉唱していただきたいと思います。」
そうです、自国他国を問わず、国旗・国歌には敬意を払うのが礼儀であり、文明人として当たり前の作法であります。ただ、今回は吹浦さんのおっしゃる通り、お許しをいただいたうえで着席のまま拝聴いたしました。違和感を感じておられた方もおられると思います。言及が遅くなり申し訳ありませんでした。
さて、君が代の演奏の前に、吹浦さんが新藤昌子さんに、「君が代」を歌う際の留意点などを質問されました。新藤さんは「歌い方で言いますと、『さざれ石の』の部分では『さざれ』『いしの』と区切ることなく『さざれいしの』と続けて歌うようにしてください。それから、この曲は演奏側の都合によってキーを変えたりしてはいけません。必ず『レ』の音から演奏を始めるのが正しいです」と教えてくださいました。
吹浦さんが「それでは会場の皆さま、ご起立のうえ演奏に合わせて斉唱をお願いいたします」とおっしゃると、皆さんが一斉に立ち上がり、斉唱に備えます。
もちろん私もその場に「気を付け」の姿勢で立ちます。
演奏が開始され、腹の底から「君が代」を歌わせていただきました。そして会場に広がる一体感に、心からの感動を覚えました。どの国の国歌もそれぞれに素晴らしいけれど、日本人にとって「君が代」ほど感動する国歌があろうはずはありません。
なんというか、言葉には表せないほどの感慨です。素晴らしかった。
君が代の感動が覚めやらぬ会場に、吹浦さんの印象的なコメントが届けられます。
「このコンサートを通じて、国旗や国歌というものへのご理解が深まればと思います。排他的にならない限り、国旗や国歌を通じた愛国心というものは、全ての国において大切なものだと思います。」
まさにその通りだと思います。自らの国を愛せない者が、他国への思いやりなど持てるはずもありません。
今回、東京音楽隊の演奏が聴きたいという動機で足を運んだ私でしたが、このコンサートの趣旨に心からの賛同を覚えますし、このような素晴らしい企画を推進して来られた関係者の皆様に感謝申し上げたいと思います。
コンサートの報告はここまでですが、終演後のエピソードなどを次回の記事で報告したいと思います。