あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

DEUTSCHE UNIFORMEN Volume Ⅱ

 お読みになった方もおられるかも知れませんが、昨年の12月25日に、「バルジ大作戦」について記事を書きました。

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 その際、「PANZERWRECKS」シリーズのうち、バルジの戦いを特集した第16編から、戦闘の結果擱座した戦車の写真を何枚かご紹介しました。

 1次資料収集の困難性もあって、日本では、このような欧州戦線の史料として価値のある書籍が出版される機会はないと言っても過言ではありませんが、海外では、米国のシッファー社のような大手だけでなく、大変小規模な、というかほぼ個人経営の出版社が地道な作業でこの種書籍の出版を続けている例が少なくないようです。

 先回の「PANZERWRECKS」が気に入ったものですから、アマゾンのサイトなどで時々この種の書籍の解説やレビューを読んだりするようになったのですが、模型店などの店頭でも扱われていることを知り、先日、都内の某模型店に立ち寄ってみました。

 なるほど、色々な種類の書籍が置かれています。やはり、実物をこの目で見られるのが店頭買いの良いところだと思います。

 そして、今回私の目を引いたのが、記事タイトルにもある「DEUCHE UNIFORMEN(ドイチェ・ウニフォルメン)Volume Ⅱ 1919-1945」でした。

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 第一次世界大戦終結後から第二次世界大戦末までの、ドイツ軍の軍服や階級章その他の徽章類などについて、その変遷だけでなく、様々な背景事情や軍装類の補給組織、また軍服を通じた、当時の軍人たちの生活様式などにも筆が及んでおり、史料としてだけでなく、読み物として大変興味深い内容になっています。

  この本を出版している「Abteilung (アプタイルンク)502」社は、ドイツ語の名を冠しながらスペインに所在する会社で、本業はプラモデル用塗料の製造販売なのですが、このような価値ある書籍も時々出版しているようです。

 やはり、プラモデル作りを趣味とする皆さんは、次第にディテールに拘るようになりますし、その辺りの精緻さを極めるためには、このような内容の濃い史料がどうしても必要になるのでしょう。

 この本の内容を見て驚くのが、軍服のみならず、肩章や襟章の写真の数の多さです。軍種や職種によって、あるいは時代によって異なる多彩な徽章類や制帽などが、これでもか、というほどたくさん掲載されていることです。

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  また、軍服の支給制度などについても説明されています。軍の将校(士官)は、ほとんどの軍装品を自前で購入する必要があった一方で、下士官・兵には必要なものが全て軍から支給されていました。それでも、多くの下士官・兵が、「外出着」としての軍服をテーラーに発注していたことなどが紹介されています。

 下の写真は、官製の軍服が支給されている様子です。

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 そして下の写真は、下士官が自前の軍服に身を包んで撮影したポートレイトです。私もかつては海上自衛官でしたからよくわかるのですが、軍服(制服)というものは誇りの象徴でもありますし、多くの場合決して質が良いわけではない官製品には飽き足らず、自前の軍服(制服)を購入するのは自然なことだと思います。

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  さて、この本の魅力はそれだけには止まりません。

 掲載されているスナップ写真やポートレイトが非常に多いのですが、それらは全て生身のドイツ軍人であり、映画の一シーンではないということです。

 写真に収まっている一人一人の人生や、そのとき置かれていた立場や任務から醸し出される緊張感や開放感がストレートに伝わってきます。

 下の写真は、パイプを加えた上官に兵が何かを報告しているシーンなのでしょうか、こちらに背を向けている兵士は、両足の間に書類鞄を挾み腰にはヘルメットが二つ括られています。この辺りに現場のリアリティというものが感じられます。

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  下の写真では、左ページのヘルメットを被った兵士の真面目そうな顔つきと、右ページ下の二人の兵士のちょっと緩めの雰囲気が対照的ですね。

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  下の写真からも、それぞれの人物の人柄と言いますか人間味が良く伝わって来るような気がします。

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  下の写真は、左のポートレイトも、右ページ下の執務室でのスナップ写真も、いかにもドイツ軍人らしい雰囲気を醸し出していますが、何となくそれらしい雰囲気を結構無理して作り出しているのかも知れないなと思わないでもありません。

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  というのも、下の写真をご覧になるとわかると思いますが、私たちが抱いているドイツ軍人の「厳格さ」のようなものが、実は思い込みに過ぎないのではないかと感じるからです。このお二人は、制帽を斜に被ってちょっとカッコつけてますよね。こうした歌舞伎かたが、当時は普通だったのかも知れません。表情もとても柔和で、あの精強ドイツ軍の将校というイメージからはかけ離れている気がします。

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  この写真も、やはり制帽を斜に被っていますし、しっかりポーズをとっているのが微笑ましい感じがします。

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  こちらは正に真摯で厳格なドイツ軍将校そのものといった雰囲気ですね。当たり前のことではありますが、様々な性格の人々が、それぞれの個性を写真に残しているということだと思います。

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  ちょっと変わったところでは、パーティーなどに参加する際の装いなども紹介されています。まぁ、どのみち軍服ではありますが、サーベルを吊るしたり、手袋を携えたりの作法があるようです。

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  戦場で撮影された写真も数多く掲載されていますが、そこにはやはり生身の人間の生き生きとした表情が息づいています。

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  私は、これらの写真から伝わる人間臭さが、この本の大きな魅力の一つであると思います。ドイツ軍の軍服の資料集という枠を超えて、あのラフな時代を生きたドイツ軍人たちの息吹が詰め込まれたような一冊ではないでしょうか。

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