あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

防衛記念賞の続きです

 前回、「赤いきつね緑のたぬき」という記事で、久しぶりに防衛記念賞のことを書きました。三宅由佳莉さんの制服の左胸に「赤いきつね」が灯っている写真を題材に、防衛記念賞のことを紹介したものです。

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 自衛官の制服にはいろんなものが装着されているので、部外の方からはそれらが何を意味しているのか、なかなか解りづらいですよね。防衛記念賞のことも「それって階級章ですか?」などと聞かれたことも、現役の頃にはありました。

 各国の軍人は、礼装着用時には自分が授与された数々の勲章で軍服の胸を飾りますし、平常時には勲章の略綬を並べます。

 略綬とは…

 勲章には、それぞれ固有のデザインのリボンがセットになっています(写真下 海福雑貨通販部様提供 https://umick.shop-pro.jp/?pid=60919937#

  多くの場合、このリボンのデザインを切り取ったものが勲章の「略綬」となります。例えば、上の写真の下の段に並ぶ勲章の場合はこのようになります。

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 防衛記念賞は、この略綬に類似するものですが、元になる勲章があるわけではありません。ではなぜ、そのようなものを自衛官は装着しているのでしょう。

 私が海上自衛隊に入隊し、江田島にある幹部候補生学校に入校した時点では、防衛記念賞などというものはありませんでした。ところが、入校中に次年度からの導入が決まり、私が江田島を卒業した直後、1982年の4月1日に制定されたのでした。

 ある教務(授業)の中で、教官がその経緯を説明して下さったのですが、要は、他国の軍人に見劣りするからということです。何だ、そんな理由?と思われるかもしれませんが、実は結構深刻な問題を孕んでいるんです。

 どうやら、防衛記念賞の制定を最も強く望んでいたのは、在外の日本大使館で勤務する防衛駐在官駐在武官)だったようです。防衛駐在官は任国において、各国から派遣されている駐在武官らとの交流を通じて軍事情報の収集等に当たっていますが、他国の武官から「お前は勲章を一つも持っていないのか」と侮りを受け、情報交換に支障を来すような事例が実際にあったらしいのです。本国から評価されてもいないような者は信用できないということなのでしょう。軍服の外観は多くのメッセージを発していますから、決して軽く扱ってはいけません。

 そのような背景から、制定が強く望まれていたものがようやく実現したと報道されている、と言いつつ、その教官はこうも仰っていました「実体のない略綬だけ着けることに何の意味があるんだ?」。この疑問は多くの自衛官が未だに感じていることかも知ればせん。防衛記念賞がしばしば「グリコのおまけ」と呼ばれてきた理由もそこにあります。あ、若い方は「グリコのおまけ」の意味が分からないかも知れませんね、その昔、グリコのキャラメルには、フィギュアなどの入った小さな紙箱がセットになっていたんです。防衛記念賞も、小さな紙箱に入っていますので、イメージがかぶるんでしょうね。

 でも最近、写真や動画で、胸に勲章のようなものを着けた自衛官をよく見かけるようになりました。

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 何種類かの防衛記念賞にメダルが制定されたのは、私が退官する直前のことでしたが、実際に目にしたのは2年ほど前からでしょうか。防衛記念賞が制定されてから40年近くを経て、ようやく実体を伴い始めたという訳です。

 これらは、内閣府賞勲局が所管する「勲章」ではありませんが、叙勲基準が非常に厳しく、自衛官の現役受勲など100%あり得ない我が国にあって、国(防衛省)が正式に定めたメダルなのですから、その意味は小さくないと思います。 

 とは言え、せめて最高位の自衛官である統合幕僚長には、制服に「勲章」を佩用できるようになって欲しいというのが私の願いです。そして、それはひょっとしたら実現するかも知れません。

 と言うのも、大将に相当する統合幕僚長、陸上・海上航空幕僚長認証官(任免に天皇の認証を要する官職)にすることの検討が政府内で行われているようなのです。実現するかどうかは分かりませんが、仮に実現した場合には、陸・海・空幕僚長から統合幕僚長に就任する際に、旭日重光章以上が授与される可能性が出てくるからです。

 そのことが、25万自衛官にとって、どれほどの栄誉であるか言うまでもありません。