あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

信頼の蓄積

 先日、「進撃は続く」という記事で、アバター系のニュースチャンネル三宅由佳莉さんが取り上げられていたことを報告しました。

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 最近、この手のニュースチャンネルが大変多くなっています。

 今回ご紹介するのも大くくりでは似た系統なのですが、アバターを用いず、投稿者がご自身の声でミリタリー系ニュースを解説している「専守防衛 or 積極防衛」というチャンネルです。

 毎日更新されているのですが、なかなかディープなところを突いてくる視点が興味深く、面白そうなテーマの時には、私も時々お邪魔しています。硬い話題なのに語り口がちょっとユーモラスで、時々、ご自分の考えをきっぱりと述べた後に「知らんけど」とちょっと逃げを打つところがまた可笑しくてハマります。

 今回取り上げるのは、3月28日にNHKBS1スペシャルで「自衛隊が体験した”軍事のリアル”」という番組が放送されるのに先立ち、同番組が公開した記事をもとにして26日に投稿されたものです。昨年の2月に米カリフォルニア州フォート・アーウィンにある、東京都がすっぽり収まるほどの巨大演習場で行われた、陸上自衛隊と米陸軍による実戦さながらの共同演習を密着取材したものです。

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 私がこの動画を確認したのは昨日でしたので、この番組自体を観ることはできなかったのですが、動画の中で、中東の乾燥地帯を彷彿とさせる環境下で行われたこの共同訓練の様子の一部を観ることができます。

 このような共同大演習が行われるに至った背景には、我が国を取り巻く安全保障環境の緊迫化があるのは間違いありません。動画では、日米双方の意思の疎通も非常に円滑であることがよく判ります。共同演習は、術力の演練を通じて相互理解と意思の疎通を図ることはもちろんですが、固い信頼関係が構築されていることを国内外に知らしめることも重要な目的の一つです。

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 この動画を拝見しながら、思い出したことがあります。

 私が、目黒にある統合幕僚学校に入校していたとき、部隊研修で座間の在日米陸軍司令部を訪れたことがあります。

 司令部の作戦室で、司令部参謀からのコマンドブリーフィングを受けたのですが、陸上自衛隊との連携等に関する説明の中で、一つのエピソードを紹介してくれました。

 ブリーフィングは、担当参謀が説明を行い、米陸軍に雇用されている日本人通訳スタッフの女性が逐次通訳してくれる形で進められていました。米軍に雇用されている通訳は、英語に関してはほとんどネイティブに近い方ばかりですし、コンテンツに対する理解も深く、大変優秀で翻訳が的確です。

 その参謀は、以前アフガニスタンでの作戦に参加したことがあるのだそうですが、ある時、在カブール各国大使館付武官団による視察があり、前線後方に設けられた拠点司令部で戦況等の概要を説明したとのことでした。

 ブリーフィングに引き続き、「リスクはありますが、ご希望があれば、ヘリコプターで前線の視察をしていただくことができます」と武官団に提案した、というところで、その女性スタッフの声が止まってしまいました。必死に耐えておられましたが、嗚咽が漏れてきます。

 一時の間をおいて、姿勢を正した後、彼女は敢えて(だと思います)淡々と続けました。

 この前線ツアーの提案に、手を挙げる者はいませんでした。みんな危険を冒してまで視察したいとは思わなかったのです。ただ一人を除いて。

 当時、在アフガニスタン日本大使館に新たに設けられた防衛駐在官として赴任していた陸上自衛官が、唯一前線視察を希望し、我々のヘリコプターに乗って、共に危険な前線まで足を伸ばしてくれました。彼にはもちろん、そのような危険を冒す義務など全くありませんでしたが、それでも危険を分かち合い、我々の前線部隊を視察してくれた彼の勇気に感動しましたし、陸上自衛隊は信頼に足る同盟軍であると強く認識しました。

 本当に淡々とした通訳でしたので、彼女の嗚咽の意味がその時は汲み取れなかったのですが、後で考えると、ブリーファーの言葉の持つニュアンスは本当に深いものがあったに違いないと思いました。

 それが、彼女には嗚咽を漏らすほどの感動だったのでしょうし、日本人として強い誇りを感じた瞬間だったのではないかと思います。

 こうした、一人一人の自衛官の小さなエピソードの積み重ねというものが、日米同盟を少しずつではあるかもしれませんが、盤石なものに育ててきたのではないかと思います。それは、自衛官をはじめとする政府関係者に止まりません。国際協力団体や海外青年協力隊、海外に展開する民間企業の最前線で活躍されている多くの日本人が、各々の現場で示し続けている誠意や勇気というものが、日本という国に対する信頼を、僅かずつでも高めてくれていますし、転じて我が国の安全保障にも大いに寄与してくれているんだと思います。

 東日本大震災の折、日本に比べれば遥かに経済規模の小さい多くの国々から、どれほどの義捐金や支援物資が届けられたことでしょう。彼らはこう言っていたんです「日本に恩返しする時だ」と。