海上自衛隊用語解説の続きです
今回のは、何なんでしょう
「勝手に引っ張っとけ!」って感じでしょうか
以前、「ウイスキー🥃オンザロック」という記事で、無線交話や電話での確実な意思伝達のため、「イロハ...」や「ABC...」を確実に伝える呼称法があることをご紹介しました。
特に、「ABC...」については、NATOコードの全てを掲示しました。最後の方にあるWがキーワードでしたから。
「イロハ...」については、アルファベットの倍もありますので、和文通話表へのリンクを貼るに留めておきます。興味のある方はどうぞ。
その、和文通話表ですが、イロハだけでなく、いくつかの記号についても、呼称法が記載されています。
その一つが「ー」で、「長音(ちょうおん)」と呼びます。
そのままだし、何の抵抗もなく納得できますよね。
ところが、海上自衛隊では、この記号のことを「ひっぱる」と呼んでいます。そうなんです、この「ひっぱる」は動詞じゃなくて、固有名詞だったのです。
具体的な使用例としては、「058A-12M」であれば、
「まる ごー はち アルファ ひっぱる ひと ふた マイク」
となります。
なぜ、こんなへんてこりんな呼称をするのでしょうか?
これも、洋上での戦闘など苛烈な環境下での聞き取りやすさが考慮されたものだと思います。「ちょうおん」には破裂音が含まれないため、音に締まりがありません。「ひっぱる」だと促音と破裂音が組み合わさるため、聞き取りやすくなります。
これも、帝国海軍の遺産の一つではないかと思いますが、実戦での教訓の積み重ねが、こうした細部に宿っているのだなと感じますし、その影には先人達の少なからぬ犠牲があったであろうことにも思いを致している次第です。
さて、長年海上自衛官をやっていると、この「ひっぱる」を頻繁に使うものですから、「ー」を見ると瞬発的に「ひっぱる」が口を突いて出てしまいます。
私も、今の会社に入リたての頃は、電話口でつい「ひっぱる」と言ってしまい、微妙な空気が流れることがありました。流石に今は大丈夫ですが、同じ職場の海自の大先輩で、未だに堂々と使っている方もおられるので、多分伝わることは伝わるのでしょう。
この大先輩とは対照的に、会社で「ひっぱる」を聞くと違和感を感じ始めた自分に、なんとなく大切なものを失ってしまったような寂しさを覚えるのも事実です。