海上自衛隊用語解説の続きです。
今回のタイトルは「じこくは インディア か? ズールー か?」と読んでください。使用している時刻帯を確認するときによく聞かれる言葉です。
「時刻帯」とは?
よく時差ボケとか言いますけど、国によって時刻に差があるのは、それぞれの国が、自分たちに最も適した「地方標準時」を採用しているからです。
地球は24時間で1回転しますから、1時間に15°づつ回転している計算になります。
ロンドン郊外にあるグリニッジ天文台を通る子午線(北極点から南極点まで南北方向に引いた仮想の線)を基準(東経0°、西経0°)として、東西方向に15°刻みで24本の標準子午線が定められています。
(グリニッジ天文台)
そしてその標準子午線を中心とする東西15°の幅を、一つの時刻帯とするのですが、現実にはそれぞれの国の都合もあり、そう簡単にスパッとはなりません。実際の時刻帯は下図のようになっています。ぐちゃぐちゃですね。
これら24個の時刻帯には識別のため、アルファベットが割り振られています。
アルファベットの呼称については、先日の記事「ウイスキー・オンザロック」を参照してください。
24個の時刻帯に割り振るのですが、ご存知の通り、アルファベットは26文字ありますので、2つが除かれます。一つは「O (オスカー)」です。そうですね「0(ゼロ)」との混同を避けるためです。
もう一つは「J(ジュリエット)」です。これは「I(インディア)」との混同を避けるためだと思われます。小文字の筆記体がなかなか判別しづらいですよね。
我が国の標準子午線は、明石市を南北に貫く東経135°です。つまり、ロンドンのグリニッジよりも9時間進んだ時刻帯です。アルファベット表記は、A(アルファ)から9番目のI(インディア)です。
ですから、日本標準時での時刻表記は、例えば午前7時45分なら「0745i」と時刻の後ろに、時刻帯符号の「i」を付け、「まるななよんご いんでぃあ」と読みます。
なぜ態々、そんなものをつけるのか。それは、世界各地でオペレーションを展開する場合、あるイベントの情報が、どの時刻帯の時刻で語られているのかが分からなければ、情報としての価値がゼロになるからです。
自衛隊の部隊も、昔と違って、世界のいろんな地域で活動しています。
海上自衛隊に至っては、アフリカ北東部のジブチに航空基地まで開設して、スエズ運河からインド洋にかけて横行している海賊への対処に当たり、船舶の安全な航行の確保に寄与しています。したがって、どの時刻帯の時刻なのかということはとても重要な要素になってきています。
また、常時世界中でオペレーションを展開している我が同盟軍である米軍は、地方標準時ではなく、世界標準時、すなわちグリニッジ標準時を使うことが圧倒的に多いです。グリニッジ標準時刻帯に付与されたアルファベットが「Z(ズールー)」です。ですから4桁の数字の後ろに「z」が付いていれば、それは世界標準時の時刻であり、日本標準時から9時間後の時刻ということになります。
そんなわけで、海上自衛隊の、特にオペレーション部門や情報部門では、時刻情報が入ったときには、「それは日本標準時なのか世界標準時なのか」を必ず確認します。そのとき、具体的な言葉としては、記事タイトルにあるような「インディアかズールーか」という質問になるわけです。