あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

空の精鋭が食する空の空上げ

 早口言葉ではありません。

 「空上げ」は「からあげ」と読みます。

 先日ご紹介した、軍事フォトジャーナリスト・菊池雅之さんのYouTubeチャンネル「KIKU Channel」に昨日アップされた動画の話題です。

 空自では、現在隊員への給食メニューにおける「唐揚げ」の特筆化を企図しているようです。海自のカレーが国内に広く浸透し「金曜といえばカレーだよね」的な雰囲気が醸されつつあることを多少は意識したものなのかもしれませんが、事実関係は分かりません。

 ただ、カレーにしろ唐揚げにしろ、我が国では老客男女を問わず人気のメニューですので、話題性は十分ですよね。

 そんな空自の「空上げ」の出来栄えを競う全国大会が開催されたのだそうです。その様子を伝えてくださったのが昨日の動画です。各地区予選を勝ち抜いた10チームによる決勝大会、さて、栄冠を勝ち得たのは? 動画をご覧ください。

www.youtube.com

 この動画を拝見して思い出したエピソードがあります。

 JR恵比寿駅から徒歩5分ほどのところに、防衛研究所があります。その敷地を通って更に奥まで進むと自衛隊の学校地区があり、陸海空の幹部学校と統合幕僚学校が同じ建物の中に同居しています。

 この地区は、空自の基地という位置付けになっていて、施設の管理や給食支援は空自が行なっています。

 私が海自幹部学校の職員だった頃には、隊員食堂で食事をする機会も多くありました。尤も、幹部自衛官は営内者ではありませんから有料喫食となります。実際に食した食数に応じて毎月の俸給から差し引かれるのですが、何しろ栄養満点ですし、美味しいので喫食希望が多数ありました。ただ、食数には厳格な制限があったのです。

 何故かといえば、有料喫食の対価として支払われる食費は、給食を行なっている部隊はおろか、防衛省にすら入らず、国庫に直納となるからです。つまり、有料喫食の食数が増えるほど、本来国が給食を施すべき営内隊員の食費が目減りするという構図になるわけです。なぜそのようなことになるのか、詳しくは存じませんが、税収と同じで、国家としての収入を受け入れる窓口が財務省に一本化されているからだと思います。

 あ、また脱線してました。

 目黒地区で喫食していた時に聞いたのですが、空自では、たとえ1食でも隊員に給食できなかったりすれば大問題となって、休養員長の責任が厳しく問われるということでした。食は士気の根源でもありますから当たり前なのかもしれませんが、どちらかと言うと海自では、業務に追われて喫食時間内に食堂に行けなければ食えないのが当たり前と言う風潮がありましたから、ちょっと新鮮な感じがしました。

 それを如実に感じたことがあります。

動画あり】ジューシー鶏唐揚げ by 筋肉料理人 藤吉和男 | 【Nadia ...

 ある海自の基地で統合演習が行われていた際の食堂での出来事です。統合演習ですから、陸自、空自の隊員も一緒に食事をしていました。喫食時間終了直後に、演習想定への対応でちょっと遅れた海自隊員が入って来たのですが、それに気づかなかったのか、若い休養員が、セルフサービス形式の食事を残飯として処分し始めたのです。それを見た一人の2等空佐が食事の手を止めて立ち上がり、「何をしている!今、食堂に入って来た者がいるだろう。なぜ、彼への給食を行わないのだ」と、大変厳しく叱責したのです。その怒声に驚いた休養員長が厨房から走り出て来て、件の若い隊員を指導したことで場は収まったのですが、「食」というものを戦力の一部であると強く認識している空自の気風を強く感じるとともに、普段は温厚なその若き2等空佐の進取の気質に感心したのでした。他軍種の基地において「喝」を入れるなど、なかなかできることではありません。つまらんしがらみなど見向きもせず、是々非々で言うべきことは言う。空自にはそのような隊風があるのではないかと感じたエピソードでした。

 なんだ「メシ」の話かよ、と思われる向きもあるかも知れませんが、行動中の部隊にとって「給食」というのは大変重要な問題なのです。

 そのような重要な問題だからこそ、今回の菊池さんの動画にあるような競技会を通じて、休養員の術力向上が図られているのだと思います。