あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

出船繋留

 海上自衛隊用語の続きです。

 今回のタイトルは「でふねけいりゅう」と読んで下さい。

 艦艇が任務を終えて母港に戻った際、岸壁あるいは既に岸壁繋留している僚艦の外側に「目刺し繋留」することになります。

 この時、入港してきた態勢のまま、つまり港口側にお尻を向けたまま係留することを「入船係留(いりふねけいりゅう)」といいます。最も短時間で達着できますから、長期行動の後など、入船係留すれば、それだけ早く上陸できるので乗員は喜ぶでしょう。

でも、よほどのことがない限り、海上自衛隊で入船係留する艦艇はありません。

 たとえ時間がかかっても、狭い港内で向きを変え、艦首を港口方向に向けて係留します。これを「出船係留」と言います。

 理由はわかりますよね?

 緊急出航命令に即応できるようにするためです。夜間に入港する場合など、乗員を早く帰宅させたいと思うのは人情ですし、タグボートを使用すれば、港務隊にも迷惑がかかるし、艦長の胸中には「入舟係留でいいかな」という思いちがチラッとかすめたりすることもあるかもしれません。

 それでも、心を鬼にして、出船係留にするのです。「精強・即応」は海上自衛隊の変らぬスローガンですし、出船繫留はシーマンシップの一部でもありますから、入船繫留などすれば、間違いなく笑い物です。

 海上自衛隊の基地を訪れる機会がありましたら、各艦艇の繫留状況をご覧になってみてください。艦首はみな港口を向いているはずです。

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 さて、このような「出船の精神」も、帝国海軍からの無形遺産の一つです。

 精神は無形だけれども、上の写真のように、必ず形となって現れます。

 そして、この精神は、ひとり艦艇部隊だけを律している訳ではありません。航空部隊でも陸上部隊でも、内容こそ違え、いつでも即応できる態勢を維持するため、「出船係留」が行われているのです。