あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

US-2

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 みなさんは、US-2(ユーエスツー)をご存知ですか?

 海上自衛隊第31航空群第71航空隊(岩国)に配備されている救難飛行艇です。名称が飛行艇ですからお分かりだとは思いますが、船の性格も持ち合わせており、海面を使って離着水できる航空機です。上の写真をご覧になれば分かる通りランディングギア(降着装置=脚とも言います)も装備しているため、通常の滑走路を使用しての離着陸も可能です。運用上、とても柔軟性のある航空機ですよね。

 因みに、飛行艇は、飛んでいる時は航空法その他の航空法規に従い、海面上にある時には海上衝突予防法その他の海上法規に従って運航されます。もっとも、船舶も航空機も似たところがあり、夜間に自分の体制を知らせるために点灯される航海灯(船舶)と航空灯(航空機)はともに、右舷(みぎげん)が緑、左舷(ひだりげん)が赤、船尾(機尾)が白となっています(注:みぎげん、ひだりげん、は海自での呼称です。うげん、さげん、という呼称法もありますので、海自式が一般的なのかどうかは分かりません。)。

  どんな感じで運用されているのか、動画でみてみましょう。この動画は、2分で概要を紹介しています。短いですけど、なるほど、と思える内容です。

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 そして、こちらは30分の長い動画ですが、エンジン始動の手順なども含め、細かく収録されていますので、航空機好きにはこちらの方が良いかもしれません。

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 一世代前のUS-1Aの時代も含め、日本からはるか遠い洋上で遭難したり、船内で急病になった人を数多く救ってきた救難飛行艇ですが、かなりの波やうねりがあっても着水できるところがすごいです。波高3メートルと言えば、水面に浮いている人からは水平線はおろか、近傍に着水したUS-2の姿さえ探せません。そんな海面にこの飛行艇は着水するんです。パイロットの高い技量も求められますが、何と言っても飛行艇としての抜群の性能があるからそんなことが可能なんですね。

 US-2の展示飛行を目の前でご覧になった方から「なんであんなにゆっくり飛べるの?」との驚きの声をよく聞きます。

 こんな大きな航空機が、やろうと思えば50ノットで飛べるんです。と言われてもピント来ないですよね。海上自衛隊の艦艇の中で最も足の速い「はやぶさ」型のミサイル艇が最大速力44ノットと言われていますから、US-2が航空機としていかにゆっくり飛べるかがお判りいただけるのではないかと思います。

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 50ノットを時速に換算すれば、92.5㎞ですから、高速道路を走っている車よりも遅いということです。「はやぶさ」より、こっちの方が分かりやすかったですね(≧∇≦)

 なぜそんなにゆっくり飛べるのかと言うと、US-2は(US-1Aも同じですが)BLC(境界層制御装置)を搭載しているからです。これはUS-2を製造している新明和工業が半世紀も前に開発した画期的な装置です。低速飛行をすると翼面に沿って流れている空気が剥離を始めます。そうすると揚力が作り出せなくなって航空機は失速してしまいます。BLCは主翼や尾翼の途中から強制的に空気を後方に吹き出すことにより、気流が翼面から剥離しないようにするのです。

 政府の武器輸出三原則見直しにより、現在、インドなど海外からの引き合いも少なくない航空機でもあります。

 このように、US-2は、まさに世界に誇れる国産の救難飛行艇で、新明和工業という老舗の飛行艇メーカーが開発したまさに名機です。老舗のと言っても、他に飛行艇を作れるメーカーはありません。だったら安泰?いえいえそんなことはないんです。

 US-2は、US-1A救難飛行艇の後継機ではありますが、当然に後継機として開発された訳ではないんです。そこには、新明和の救難飛行艇メーカーとしてのプライドと心意気の物語がありました。ビッグコミック増刊号(年5回発行)にゆっくり連載中の、月島冬二さんの漫画「US-2 救難飛行艇開発物語」がその開発秘話を追っています。

 今年4月に、第1話〜第5話を収めた単行本が発売されました。第1話だけは試し読みができますので、下のリンクから飛んで、読んでみてください。面白いです。日本の防衛産業は、こういう心意気が支えているんだなと思えます。

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コミックドライブ起動「US-2 救難飛行艇開発物語 1巻」

 さて、US-2に親近感を抱いていただけたでしょうか?

 でも、ご自宅にUS-2をお持ちの方は滅多にいらっしゃらないと思います。

 実は、昨日の午前中、私の自宅にUS-2が届きました。日本郵政の配達担当の方が持ってきてくれたんです。

 これです。どうですか、実機のようでしょう?

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 このブログによくコメントを寄せてくださるTAK-CHANさんが、丹精込めて製作し、私に贈ってくださったのです。プラモデルなのですが、細かいところまで精巧に再現されていますし、塗装が緻密に仕上がっています。垂直尾翼上からコックピット後ろまでの空中線(アンテナ)まで自作してくださいました。モデラーにとって、丹精込めた作品は我が子のようなもの。それを贈ってくださったことに、感謝の言葉もございません。TAK-CHANさん、本当にありがとうございます。

 普段はこのようにクリアケースの中に格納して展示します。

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 日本が世界に誇る、この美しい機体が、目の前にあるのはとても幸せなことです。

 思わず記事にしたくなり、US-2そのものから稿を起こしてみました。

 なお、このキットの製作過程は、TAK-CHANさんのブログに掲載されていますので、ぜひ下のリンクから訪ねてみてください。他の趣味である天体観測や剣道のことなども載ってますよ。

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