あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「かとりを曳航せよ」

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 遠洋練習航海の続きです。

 我が艦隊は、南米大陸の各国をめぐり終え、久しぶりの北米大陸に向けて航行を続けました。つまり、南半球から北半球へ戻るわけです。

 北半球と南半球の分かれ目が赤道ですよね。パナマから南米に向かう際にも一度赤道を越えていますが、その際には「かとり」の艦上で「赤道祭」を行いました。

 司令官が、海の神様から赤道門の鍵をいただき、その鍵で門を開いて通るという儀式と、各艦、各分隊ごとに寸劇などを繰り広げるイベントを兼ねた、いわば長期行動の合間の息抜き行事です。

 当時は、女性自衛官の艦艇勤務はありませんでしたので、男だけです。ですから、寸劇には女装した隊員も出演しますが、その時は馬鹿みたいに盛り上がります。かく言う私も女装での熱演で大爆笑をいただきました。

 さて、今回2度目の赤道通過の際には、赤道祭は行いませんが、ちょっとしたイベントが用意されていました。

 「かとりを曳航せよ」

 艦に搭載されているカッター(短艇)で、「かとり」を曳航して赤道を通過すると言うのです。

 ちなみに、カッターは、艦に搭載されている手漕ぎのボートです。ダビッドという昇降機に収められた形で艦のサイドに搭載されています。このダビッドを艦の外舷に張り出してカッターを宙吊り状態とし、そこからウインチを巻き下げて海面に下ろします。

 先日、三宅由佳莉さんの2009 年レビューという記事で、カッター訓練のことを書きましたが、教育部隊には、この写真のダビッドを舷外に張り出した狀態の固定ダビッドが多数置かれ、そこにカッターが吊るされています。つまり、陸上の部隊ではありますが、艦艇に乗り組んでいるとの心構えで訓練が行われているわけです。

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 話を戻します。腕自慢のクルーが選抜され、カッターが海面に降ろされます。

 そして、曳航索で「かとり」の艦首とカッターの艇尾をつなぎ、エースクルーが力任せに漕走(とうそう)を試みているのが、記事ヘッドの写真です。

 みんな艦上からやんやの声援と、放水による「冷却」支援を行います。何しろ赤道直下の猛暑ですから。

 しかしです、いかに優秀なクルーでも、3,500トンもある軍艦を手漕ぎで曳航できるはずもありません。「かとり」がちょっとずつ前進することで、一応カッターによる曳航で赤道を通過したという建前でこの儀式を無事終えたのでした。

 こういう、ちょっとした非日常的なイベントというものが、長期行動を成功させるコツだと思いました。皆、家族を日本に残したまま、長期に渡り慣れない外国を転々とするわけですから、それぞれストレスを抱えながら日々を送っています。このようなイベントで盛り上がり、気分を変えることが必要なんだなと実感しました。

 次はロサンゼルス訪問時のお話になります。