少し前の話になりますが、先月末の土曜日は、晴れ渡る秋晴れでしたし温かい日でしたから、ちょっと足を伸ばしてみました。行き先は、代々木上原。小田急線の駅です。
私には、あまり馴染みのある界隈ではないのですが、ちょっと尋ねてみたい理由があったのです。
以前、三宅由佳莉さんが定例演奏会でクリスマスソングのメドレイを歌われたことを紹介する記事で、啓典の民のことについてちょっと触れたことがあります。
私は宗教には無縁の生活を送っていますが、啓典の教え、すなわちユダヤ教、キリスト教、イスラム教には若い頃から興味がありました。
中でも、私が最も興味をひかれていたのがイスラム教です。過去に、イスラーム帝国やオスマン帝国が、イベリア半島など欧州の一部から、北アフリカ、中央アジア、さらにはインドまでをイスラム圏に収め、宗教的のみならず、文化的、技術的にも計り知れない影響力を残したはずなのに、私たちの日常からは遥かに遠い、謎だらけで神秘的な世界に思えたからです。
ですから、市販の書籍などを読みながら、少しづつでも理解しようとしてきましたが、個人の趣味の範囲ですから大したことはできません。特に、キリスト教的な世界に比べ、通常、イスラム的生活というものをを実際に目にする機会がないことが、イスラムを実感するうえでは大きなハンデと言えるでしょう。
そんなイスラム的世界を間近に感じられる場所があることを最近知りました。それが、代々木上原に所在する東京ジャーミィ、日本では最大のモスクです。
代々木上原駅を出て、井之頭りを明大方向に進むと、5分ほどで左手にモスクの尖塔(ミナレット)が見えてきます。
これがモスクの入り口になります。とてもエキゾチックな佇まいですね。
そして、外壁には大きな垂れ幕が掲げられ、「見学はご自由です」と書いてあります。そうなんです、誰でも入って中の様子を見ることができるんです。そして、1430から行われる施設内のツアーでは、1500からの礼拝の様子も見学することができます。
礼拝の様子を拝見することができるという話を聞いて、是非そのツアーに参加してみたいと思ったのでした。入り口から入ってすぐの広いホールには、同じツアーに参加されると思われる日本人の皆さんが大勢、楽しそうにあちこち見てまわっていました。
入り口から向かって右側の壁には、日本とトルコ共和国の国旗が掲げられていました。実は東京ジャーミィはトルコ文化センターを兼ねているんです。
そしてその反対側には少し奥まったゲストルームがあり、おそらくトルコ共和国大使館員の家族と思われる少女たちが楽しそうに歓談していました。写真を撮り損ねたのですが、この区画の入り口の右側にはトルコ茶とデーツ(ナツメヤシの実)が用意されていて、自由に頂くことができました。どちらもとても美味しかったですよ。
館内をあちこち見学するうちに、ツアーの時間になりましたので、ホールに戻ってみると、フェイスガードを装着した、とても体格の良い男性の周りに大勢のツアー参加者が集まっているのですが、語り口がとても面白いので、笑い声が絶えません。楽しいツアーになりそうです。
因みに、ガイドをして下さった方は非常に流暢な日本語を話されるのですが、大変体格もよく、面相も中東から欧州の方のようでしたので、きっとトルコ共和国の方だとばかり思っていたのですが、自己紹介で「下山です」と仰られたものですから、皆驚きました。
さて、その下山さんから、まず、イスラムとは何かについて説明がありました。大変興味深く、楽しいお話でしたが、全部書くことは勿論できませんので、ごく簡単にまとめてみます。
イスラムに対しては、まだまだ偏見があるように思えるが、それは事実を知らないことに起因している。イスラムは宗教ではあるけれども、一つの文明である。日本がまだ飛鳥時代の頃には、大変成熟した先進文明が花開いていた世界でもあった。天文学や建築学、数学といった学問が発展したのもその頃である。
そのような高度に成熟した大文明に基礎をおいて発展してきたのがイスラム教であるということを是非理解して欲しい。
また、イスラム教というとどうしてもアラブ世界が中心のように思えるかも知れないが、アラブ圏のイスラム教徒は全体の14%ほどに過ぎず、多くはアジア圏に分布している。最大のイスラム教国はインドネシアだし、その他にもアジア諸国には多くのイスラム教徒が暮らしている。最近、アジアの国々から日本に来て働いている方も増えておりその中には相当数のイスラム教徒が含まれている。つまり、私たちの隣人になりつつあるイスラム教徒のことを理解して頂けるとありがたい。
そして、東京ジャーミィの沿革について説明がありました。こちらも簡単にまとめてみます。
日本にイスラム教徒が居住し始めたきっかけは1917年のロシア革命である。共産主義は宗教を認めないので、迫害から逃れるためイスラム教徒はロシア国外に脱出した。その一部が日本にも逃れてきて、この辺りに居住していた。当初、千駄ヶ谷の礼拝所が利用されていたが、モスクを建設することとなり、1938年、この地に代々木モスクが生まれた。この施工を行ったのは、石川県の師田組という宮大工を専門とする会社で、木造建築であった。しかし、年月を経るにつれ、雨水が外壁の内部に染み渡り骨格を蝕んでいったため建物が変形し、危険な状態となった。このため50年を待たず、1986年に解体されてしまった。在日イスラム教徒のため、モスクの再建が必要だったため、トルコ国内で募金を募ったところ、莫大な寄付が寄せられ、その資金で再建されたのがこの東京ジャーミィである。2000年に落成したこの建物は、コンクリート以外の全ての建築資材をトルコから運び、職人もトルコから派遣されて、全くのトルコ式建築で作られたものである。
その後、建物の外観見学になりました。
説明によると、モスクには礼拝所が設けられているので、勿論宗教的な施設の一面もあるのですが、何かあった時に駆け込む避難所のような位置付けなのだそうです。ですから、どこから見てもその所在がわかるように高い尖塔(ミナレット)が備わっているとのことでした。
また、モスクを囲む4つの壁面には鳥が休憩できるように、鳥の巣が必ず設けられており、「鳥の宮殿」と呼ばれているのだそうです。 「実際に鳥が憩うかどうかは別として、鳥にとっても避難所として機能するようにという心持ちが大切」だとの説明に、何となく日本人の感性と似たところを感じました。
ちょっと拡大しますと、この部分です。
そして、モスクの裏手に回ります。礼拝所に向かうために裏手から再び施設内に入る前に、下山さんが、「ここは撮影スポットですよ」と仰るので、一枚撮影してみました。ミナレットは右の方に隠れていますけど、トルコ建築の荘厳な建物の雰囲気が伝わるのではないかと思います。
建物の中のちょっと迷路のような通路を通って、二階部分にある中庭のような所に出ました。このアーケードが設られた部分が礼拝所です。ふと見上げるとミナレットの最頂部が間近に迫ります。
入り口で靴を脱ぎ、礼拝場に入ったのですが、やはりちょっと気持ちが引き締まるような感じがします。
礼拝所の中は、大変美しい広大な空間でした。意外にも撮影の制限はありませんでしたので、ツアー客の皆さんが思い思いにスマホで動画や写真の撮影をしています。
私も、たくさん撮影させていただいたのですが、何本か撮影した動画を繋げてみました。礼拝への呼びかけを行う「アザーン」が館内に流れる中、礼拝所へ向かう時は、何か心地よい緊張を感じましたし、礼拝所の中は、荘厳な建物とは裏腹な、とてもアットホームで柔らかく暖かい空気を感じました。ご覧になってください。
礼拝が終わったあと、説教をされていた僧侶の方が私たち見学者の所まできて下さって、流暢な日本語でご挨拶されました。フェイスガードをした黒づくめの方が、私たちのツアーのガイドをして下さった下山さんです。
動画でもご紹介しましたが、礼拝所の内部は荘厳で大変美しい空間でした。写真や動画ではとてもお伝え仕切れないと思います。ただただ、唖然とするばかりでした。
礼拝の見学が終わったところで、下山さんから最後のご説明があり、ツアーは一応それで終わりました。その後、もとのホールに戻ればまだお話を聞くことができたのですが、他の施設にも興味があったので、今回はそちらにシフトすることにしました。
礼拝所のすぐ脇にカフェ(ユヌス・エムレ・カフェ)がありましたので、ちょっと顔を出してみました。
トルコ料理を学ぶ料理教室なども開催されているようです。
そして、カフェの中に入っていくと、あ、なんと「エルトゥールル号」の模型が置かれていました。
「エルトゥールル号」…長らくこのブログをお読みの方なら覚えておられるのではないでしょうか。日本とトルコの紐帯の礎ともなった船でもあります。興味のある方はこの記事をお読みください。長いですけど(≧∀≦)
カフェでは、トルココーヒーを頂きました。挽いたコーヒーを濾さずに淹れられているので、それらが沈澱するのを待って上澄を飲むのだそうです。まぁ一緒に飲んでも気にならない私は、待つことなく頂きましたが、大変深い味わいの美味しいコーヒーでした。他にも色々なメニューが揃っていましたが、まずはトルココーヒーかな、と思い一杯いただいた次第です。
因みに、このカフェ(ユヌス・エムレ・カフェ)のインスタグラムをフォローするとチャイ(茶)一杯がプレゼントされるそうです。もし訪ねられる方がいらっしゃいましたら、予めフォローしておくといいかもしれません。
今回は、ちょっと毛色の変わった記事となりましたが、以前から抱いていたイスラム教への関心をちょっと前に進めることができたかなと思い記事にしてみました。下山さんが仰るとおり、知らないことに起因するイスラム教への偏見や無理解というものが、まだまだあるのではないかと思います。是にせよ非にせよ、現状を正しく知った上で判断を下すことは、とても大切だと思いますし、何より、異文化との触れ合いというものは、本当に得るところが大きいと思います。
私はイスラム教に入信するつもりはありませんが、イスラム文明に対する大いなる敬意を抱いてきた者として、東京ジャーミィをまた訪れてみたいと思っています。
因みに、このツアーは特に予約等は必要ありません。時間までに施設に行けば良いだけですし、堅苦しさの全くないツアーですので、この記事を読まれて興味を持たれた方は、足を運ばれてはいかがでしょうか。