「作曲家の河邊一彦さん」と言っても、すぐにはピンとこないかも知れません。海上自衛隊東京音楽隊の第16代隊長で、三宅由佳莉さんのCDデビュ-曲「祈り a prayer」を作詞・作曲された方と言えば、お分かりでしょうか。
現役時代には「祈り」をはじめ、数多くの作品を作曲された方であり、また、ご自身が隊長に就任された後は、初めてのヴォーカリストとして迎えたばかりの三宅由佳莉さんと、東京音楽隊のバンドを良導され、「吹奏楽と声楽の融合」という新しい分野を精力的に開拓された方でもあります。
私は音楽の素人ですから、技術的なことはもとより、芸術性・音楽性についてとやかく言う資格はありませんが、河邊さんの活動が、現役の頃から音楽業界の中で高く評価されていたことや、平成26年に退官された後も、作曲家として、あるいは指揮者として、幅広く活躍されているのを見れば、才能溢れる音楽家なのだということはわかります。
河邊さんの数ある作品の中でも、その頂点を極めているのが 、四曲で編成される交響組曲「高千穂」ではないかと思います。全国吹奏楽コンクールの課題曲としても選ばれたことのある作品ですし、素人ながら、私は深い感銘を覚えました。
第一楽章 天の逆鉾
https://www.youtube.com/watch?v=3N2dTfcKeEg
第二楽章 仏法僧の森
第三楽章 神住む湖
https://www.youtube.com/watch?v=847ssyxVaxY
第四楽章 紺碧の空、雲流る
https://www.youtube.com/watch?v=P7wgT_ns9UY
今日は、河邊さんが目指した「吹奏楽と声楽の融合」のために作られた作品の第一号でもある、第二楽章「仏法僧の森」についてご紹介します。
この動画は、平成23年(2011年)2月20日、オペラシティコンサートホールで行われた海上自衛隊東京音楽隊第50回定期演奏会での演奏です。つまり、東日本大震災の20日ほど前ということになります。
お聴きになった感想はいかがでしょうか。人それぞれ好みもあると思いますが、私は魂を揺さぶられました。繊細な心象風景と悠久の時の流れの重みのようなものが、東京音楽隊の素晴らしい演奏と三宅由佳莉さんの力強い歌声によって、心のど真ん中に突き刺さったような感覚でした。
仮に、東日本大震災の後に「祈り」という曲が作られなかったとしたら、三宅由佳莉さんは、「仏法僧の森」で、やはりメジャーデビューされたのではないかと思いますが、おそらく、よりクラシックやオペラに軸足を置いた活動になっていたかも知れません。
いずれにせよ、東京音楽隊に配属になったその時期に、河邊一彦さんのような才能溢れる音楽指導者と出会えたことは、三宅さんのみならず、多くの三宅由佳莉ファンにとっても、幸運だったのではないでしょうか。
この曲について、賞賛のコメントとともに歌詞をアップしてくださっているサイトがありましたのでリンクを貼っておきます↓
ちなみに、ブッポウソウとはオーストラリアなどに生息する鳥で、日本には夏鳥として飛来するそうです。組曲「高千穂」が描く高千穂の鬱蒼と広がる森で見かけることができるそうですが、絶滅危惧種にも指定されているのだとか。
曲のタイトルでは、敢えて漢字表記が使用されていますが、静謐な神域を描きつつ、仏教的諦観のイメージをオーバーラップさせる効果があるような気がします。勝手な解釈ですけど。
なお、高千穂には神武天皇の幼名「佐野尊(サノノミコト)」に由来した「狭野(さの)神社」があり、神武天皇降誕の地とされています。