「海のさきもり」という曲があります。
新たに建造された護衛艦や潜水艦は、造船所において艦体の建造が終わった段階で「命名進水式」を行い、防衛大臣により艦名が付与され、進水します。船としての基本的な建造は終わっても、艦として運用するためには、兵装や艦内設備、内装などを仕上げていかなければなりません。この作業を「艤装(ぎそう)」と言いますが、これは実際に艦に乗組む人間が、造船所の技師の方々とともに行います。その隊員たちのことを「艤装員」といい、その長が「艤装員長」です。
そして、艤装を終え、就役する際には、「艤装員長」はその艦の「艦長」に、「艤装員」はその「乗員」にそれぞれ発令され、自分たちが造り上げた艦に乗り組みます。
この時に行われる儀式が「引き渡し式」と「自衛艦旗授与式」です。
艤装中の艦は、まだ造船会社のものですので、自衛艦旗ではなく社旗が掲げられています。その艦を会社から防衛大臣に引き渡し、防衛大臣から会社への受領書を交付するのが「引き渡し式」、防衛大臣から初代艦長に自衛艦旗を授与するのが「自衛艦旗授与式」です。
下の動画は、潜水艦「じんりゅう」の引き渡し式と自衛艦旗授与式の模様です。
自衛艦旗授与式の際に音楽隊が演奏していた厳かな曲が「海のさきもり」です。三宅由佳莉さんの歌声がこの儀式を引き締めているように思えます。
従来、この曲は音楽隊による吹奏楽のみの演奏でしたので、海上自衛官でも歌詞があることを知らない人がほとんどだったと思います。私も知りませんでした。
三宅さんが入隊後、このように歌われるのがスタンダードになってきています。現在は横須賀音楽隊の中川麻梨子さんと三宅さんが分担して新造各艦の自衛艦旗授与式に厳かな気品を与えています。
前回の観艦式の際に、「いずも」艦上で、三宅由佳莉さんがこの曲を歌う様子を収めた動画がありますので、聴いてみてください。1番と3番が歌われています。
以前別の記事でも紹介したのですが、とてもいい歌詞なので、改めてここに紹介させていただきます。
一 新たなる光ぞ
雲紅(あか)き日の本の
空を、富嶽を仰ぎて進む
我らこそ海の防人
二 くろがねの力ぞ
揺るぎなき心もて
起ちて鍛えて、弛まず行かん
我らこそ海の防人
三 永久(とこしえ)の平和ぞ
風清き旗の下
同胞(とも)を国土を、護らでやまじ
我らこそ海の防人
この歌は、海上自衛隊の前身である海上警備隊の隊歌として編まれ、海上自衛隊に引き継がれたものです。つまり、帝国海軍や今の海上自衛隊と比べれば、はるかに見窄らしい艦艇や装備しかなかったにもかかわらず、海の防人を自認して、気高くあろうとした心意気が伝わってくるようで、ちょっとグッときます。
【追記】
2018年3月12日(月)、三菱重工神戸造船所で行われた潜水艦「せいりゅう」の引き渡し式及び自衛艦旗授与式で、また、同月20日(火)三井造船玉野工場(岡山県)で行われた潜水艦救難艦「ちよだ」の引き渡し式及び自衛艦旗授与式で、三宅由佳莉さんが「海のさきもり」を歌われました。低音部の力強い歌唱が聴き処です。。
これらの式典における三宅由佳莉さんの歌唱等について書いた記事がありますので、よかったら読んでみてください。