あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

三宅由佳莉さんのつぶやき英語から見えたもの

 犬も歩けば棒に当たる。ネット空間を彷徨っていると、時々意外なものに出逢います。ネットサーフィンでの私の関心事は色々ありますが、海上自衛隊東京音楽隊三宅由佳莉さんのことが常に念頭にあるのは言うまでもありません。

 今回出逢ったのは、英語の通信教育や英語教材のオンラインショッピングなどを手がける「アルク」のサイトです。日替わりで、各界の有名人のコメントを英訳し、表現方法を学習する「起き寝るつぶやき英語表現」というコーナーに、三宅由佳莉さんのコメントが引用されていました。

 「海上自衛隊に所属する三宅由佳莉さんがCDデビューしました。」と言う解説の記載内容から見て、2013年のことだと思われます。

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 引用されているのは、「この曲を聴いて元気になってもらいたいですね。悩んでいたり、不安でいたりすることもあると思うし」という、おそらく「祈り〜a prayer」についてのコメントです。

 英訳は「I hope this song cheer people up, as I'm sure everyone feels worried or anxious at times.

www.alc.co.jp

 日本語の表現はちょっと曖昧なところがありますし、学校で習った英語だけでは、このような活き活きとした翻訳ができません。こうしたちょっとした表現方法と、発言者が言いたいことを英語で表現しやすいように言い換えてみるということが必要になります。なかなか、ためになる良いコーナーだと思います。

 ところで、同時期に、どのような方々のコメントが引用されていたのかと言いますと、下の一覧のようになります。錚々たる顔ぶれですね。三宅さんは下から4番目に掲載されています。

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 つまり、三宅由佳莉さんは2013年の事実上のメジャーデビューによって、このようなステータスを獲得していたというわけです。そしてそのステータスは、主としてメディアへの露出という形で具現化されていきました。

  このような扱われ方について、当時は「芸能人でもあるまいに」とか「自衛官の本分を忘れている」というような批判もあったと聞きます。何しろそれまで誰も想像しなかったような事態ですから、防衛省海上自衛隊の内部でも、また音楽隊の旧来のファンの皆様の間でも、パニックに近い反応が生じたのではないかと想像します。

 でも、そもそもの根本に立ち返ってみますと、三宅由佳莉さんの大ブレイクというのは、国民の心理領域に確固たる橋頭堡を築いたということであり、使命の遂行に他ならないのではないでしょうか。音楽隊の使命の一つである「我が国の防衛に寄与するため、国民の自衛隊に対する理解と支持を広げる」という事業は、究極的には、国民の心理領域を席巻してこれを自衛隊への支持に糾合することを目指していなければならないはずです。しかしながら、従来、そんなことは無理だとの暗黙の了解が、音楽隊の活動自体を矮小化してきたという一面があるのではないかと思うのです。

 これまで打ち破れなかった厚い壁を突破し、既存の自衛隊支持者以外の広大な領域に確固たる地歩を築いたことの意義は計り知れません。

 そして、これをさらに拡充していくためには、ネットを含むメディアという社会インフラを活用しなければなりません。そのことは、外見上、芸能人と大変類似した活動とならざるを得ませんが、そのどこに問題があるというのでしょう。

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 自衛官なんだから、公務員なんだから、あまり目立たず、昔からの支持者に向けて無難な演奏活動を続けていけば良い…そんな考えでは、我が国を取り巻く安全保障環境が待った無しの危機的水準に達しつつある、この激動期を乗り切ることなどできない、と私は思います。

 今月1日に退官された河野克俊統合幕僚長は、これからは「顔が見える自衛隊」というコンセプトが重要だと指摘されています。統合幕僚長統合幕僚長として、各司令官は司令官として、そして、国民との直接のインターフェイスである音楽隊は音楽隊として、国民の間に確かな存在感を確立していかなければならないということです。

 三宅由佳莉さんという類まれな存在が、自衛隊と国民の間に投じた一石の影響は想像以上に大きいものです。そして、そこに生じた波紋を国民一般に遍く行き渡らせるための努力が今行われているのだと思います。