あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

平成30年度「自衛隊音楽まつり」を観てきました!

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 一昨日(2018年11月22日木曜日)、14時開演の第3回公演を観覧して参りました。

今回は、自分で録画した動画を記事に埋め込むための処理に思いの外時間を要したため、すっかり遅くなってしまいましたが、報告させていただきます。

 開演前の会場の様子です。今から始まる公演への期待感が静かに満ちていく、そんな雰囲気が漂っています。

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 前日の公演を御覧になった「カキンTV」さんのフル動画を事前に拝見し、「自衛隊音楽まつり、とりあえずの印象」という記事を書きました。ですから、全般の流れについての予備知識はありましたが、やはり会場でのライブは、緊張感と期待感が格段に違います。

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 会場入りしてから、YouTubeを確認したところ、「ikoan01」さんも、初回公演のフル動画をアップして下さっていましたので、ここにリンクを貼らせていただきます。座席はおそらく、私が座ったのと同じ1階席中央の最前列なのではないでしょうか。

 三脚使用禁止の中で、フル動画を撮るのって大変だと思います。「ikoan01」さん、いつも素敵な動画をありがとうございます。

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 まず、今年の音楽まつりのテーマ「挑戦 CHALLENGE」のサブテーマである各章の構成を見てみましょう。各軍種合同での演奏となる序章、第3章、最終章のカテゴリー各軍種ごとの第1章(陸)、第2章(海)、第4章(空)のカテゴリーに明確に区分されています。やはり、各軍種ごとの「挑戦」の中身を際立たせる意図があるものと思われます。

序章:挑戦、始まる。

第1章:陸の挑戦〜芽生える、大地からの鼓動〜

第2章:海の挑戦〜繋がる、希望の海〜

第3章:飛翔、昇りゆく挑戦。

第4章:空の挑戦〜広がる、明日の空へ〜

最終章:終わらぬ挑戦

 

 各章ごとに、私が撮影した拙い動画も交えながら感じたところを記していきます。詳しくは上に紹介した二つの動画をご覧ください。

 序章の初っ端を飾るのは、例年どおり3自衛隊音楽隊による合同演奏ですなのですが、開演前からステージ中央に太鼓が置かれているのが目を引きます。

 恒例になった、カウントダウンで場内が暗転、演奏が始まります。「シン・ゴジラ」から「Who will know」です。中央正面から陸自中央音楽隊の松永美智子さん、左袖から海自東京音楽隊三宅由佳莉さん、そして右袖からは、空自中央航空音楽隊の森田早貴さんが登場してこの、恐怖とも絶望ともつかない心の淵からの哀しみの調べを美しく歌い上げます。

 因みに、英語で歌われるこの曲の日本語訳詞付き動画がありましたので貼っておきます。胸に染みるとか、そういう次元ではない歌詞の深い意味を味わってください。

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 この、身の置きどころもないような孤独感を起点として、今年の音楽まつりのテーマ「挑戦 CHALLENGE」が展開されるというわけです。

 昨年の音楽まつりでも、「ゴジラマーチ」が合同演奏で披露されましたよね。自衛隊ゴジラは昔から宿敵同士ですから、因縁が深いということなのかも知れません。

 合同演奏の最期に、「消灯ラッパ」が奏でられました。これは陸海空自衛隊共通のラッパで、各部隊ごと、消灯時間になると隊内に一斉放送されます。もっとも、殆どが録音された音源の放送ですけど。一昨年の音楽まつり(音の力)では、冒頭いきなり、東音トランペット奏者である西村麻美子さんによる「起床ラッパ」の吹奏から始まって驚かされましたが、自衛隊のラッパをモチーフにするという流れがあるのかも知れませんね。それにしても、吹奏楽で消灯ラッパの調べを膨らませていくと、こんな風になるんだと大変驚きました。音楽というものは奥深いものです。

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 合同演奏が終わり、第302保安警務中隊によるオープニングセレモニーです。新制服での斉一な動作で、国旗への着剣捧げ銃が行われ、このイベントのオープニングを締めます。そして、退場となるのですが、例年ですとドラムの響きにあわせて行進していくのですが、今年は3自セントラルバンドによる「君が代行進曲」に乗っての退場です。

 私も大好きな行進曲ですが、3自の合同演奏でこの曲が演奏されることに大きな意味があると思います。素晴らしい演奏でした。

 

 第1章(陸の挑戦)では、まず今年断行された陸上自衛隊の非常に大きな組織改編についてナレーションで説明が行われました。島嶼部への迅速な機動展開により実効的な抑止を実現するため、機動師団・旅団への改編、日本版海兵隊とも言われる水陸機動団の新編、そして防衛大臣の下に並列していた5個方面隊を一元指揮可能な陸上総隊の新篇についての説明です。この大改編は、まさに画期的であり、陸上自衛隊が挑戦すべき方向性を明確に示していると思います。

 この章では、まず5個方面隊にそれぞれ置かれる5個の方面音楽隊のうち、東北方面音楽隊と西部方面音楽隊が出演しました。両方面とも、近年大規模な震災等による被害を受け、未だ復興への道半ばという環境にあります。陸自は、毎年2個方面音楽隊を順次出演させていますが、ナレーションによると、東北方面音楽隊と西部方面音楽隊が共演するのは今回が初めてということのようでした。意外ですね。

 

 続いて出演したのが米海兵隊第3海兵機動展開部隊音楽隊です。随分長い名前ですね。3MEF(Ⅲ Marine Expeditionary Force/スリーメフ)とも呼ばれる、第3海兵機動展開部隊は、巷間「第3海兵遠征軍」などとも訳されていますが、防衛省では「機動展開部隊」と呼称しています。米海兵隊が持つ3つの機動展開部隊のうち唯一海外に司令部を置き、中東からアジア太平洋にかけての広大な作戦エリアに責任を持つ重要な部隊です。

 その音楽隊が、陸自の章に出演したことが注目点です。米海兵隊は、陸海空軍と並び米4軍の一角を占めますが、組織上は海軍に所属します。したがって、軍種のカウンターパートとしては建前上は海自ということになります。ところが、今年3月に日本版海兵隊・水陸機動団が新篇され、実質上のカウンターパートは当然陸自です。そのことを象徴的に示したのが、今回の出演区分ですし、そのために章編成を陸海空に分けたのではないかと推察します。大変意義深いことだと思いました。

 そして、陸上自衛隊中央音楽隊のドリル演奏ですが、ナレーションでも紹介されていましたが、「ミリタリズムス」を追求した内容になっています。今、陸自が置かれている環境を、ドリル演奏で表現しようとすれば、当然こうなるのでしょう。スマホ撮影の動画で恐縮ですがご覧ください。

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 第2章(海の挑戦)では、まずフランス海軍から、バガット・ド・ラン・ビウエ軍楽隊の登場です。同軍楽隊については、先日、記事でご紹介した通りです。

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 曲目は「AZERTY」そして「海の声」。拙動画をご覧ください。「海の声」では東京音楽隊の太田紗和子さんがピアノセッションで参加しています。本当に素晴らしいピアニストですね。

 バグパイプと聞けばスコットランドが思い浮かびますが、実はヨーロッパ各地にそれぞれ独自のバグパイプが伝わっているのだそうです。思い込みは禁物ですね。とても美しい音色と、哀調を帯びつつも聴く者の心を静かに鼓舞して止まない「AZERTY」の伝統の旋律、そして私たちに馴染みの深い「海の声」の素晴らしい演奏をお聴き下さい。

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 そして、シンガポール軍軍楽隊の演奏です。静的なフランス海軍とは対照的に、華やかで動的な、シンガポール軍のドリル演奏をどうぞお楽しみ下さい。ドラムメジャーのスティック投げ技が凄いです。

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  この音楽隊は、1994年に陸海空の音楽隊を統合して発足した、シンガポール軍内でトップステータスの音楽隊です。言うなれば、陸自中音、海自東音、空自空中音を一つにしたような音楽隊で、制服も統一されています。軍の規模と国土面積を考えると、この方が効率的だと言うことなのでしょう。

 防衛省内でも、音楽隊の統合を主張する声があるに違いありませんが、私が思うに、そのような統合は、自衛隊ほどの部隊規模と国土面積を考えた場合、逆に非効率だと思います。また、統合運用が主流になりつつあるとはいえ、統合運用は陸海空の各軍種がしっかりとその特色を極めた能力を研ぎ澄ましているからこそ成り立つものです。軍種の特色を無くして均一化してしまったのでは、相乗効果が得られないばかりか、力が相殺し合うばかりです。また、士気高揚という観点からも、音楽隊の統合など問題外であると思っています。陸海空の各自衛隊が、それぞれの軍種に誇りを持っていることこそ士気と能力の淵源なのです。

 また、脱線しましたね、すいません。

 第2章ドリル演奏の最後は、海上自衛隊東京音楽隊です。どんなチャレンジに焦点が当たったかと言うと、二人の歌姫の初めての共演を前面に押し出してきました。陸とは全くディメンジョンの違う挑戦を持ってきたわけですが、三宅ファン、中川ファンにとっては嬉しい構成になりましたね。事前にTwitterで情報が流れていたこともあり、このお二人の共演への注目度は相当高かったのではないかと思います。

 中川麻梨子さんは、今回が音楽まつり初出演ですが、実に堂々とされてましたし、見事な歌声を披露してくださいました。三宅由佳莉さんとのデュエットで披露されたのは「この星のどこかで」。聴き応えのある歌唱と、お二人での踊るような滑らかな身のこなし。振り付けは三宅さんだと思いますが、お二人で何十回となく練習を重ねて来られたのでしょうね、短時間ではありますが、歌劇の一場面を見ているかのような、優雅で気品溢れる素晴らしい内容でした。

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 そして、バンドの演奏です。海自オリジナル「海峡の護り」の力強くテンポの早い演奏に、ドリル展開も目まぐるしく、ある種の緊張感を感じさせる見事な演技でした。これも挑戦ということなのでしょうか。そして、ドラムが響くなか体制を変換して、最後の演奏は、行進曲「軍艦」です。昨年のように歌唱は入れず、演奏のみの伝統的なパフォーマンスでした。でも、全体的に、イメージが一新されたような印象を受けるのは何故なのでしょうか。とても印象に残る海自のドリル演奏でした。

 第2章の締めくくりは、合同演奏です。曲目は大ヒットアニメ「君の名は」から、RADWIMPSが手がけたエンディング曲「なんでもないや」とテーマ曲「前前前世」でした。

    「君の名は」が劇場大ヒットしていた頃、私はこの作品を舐めていたのですが、後日、テレビで放映されたのをたまたま観て、完全にやられてしまいました。素晴らしい作品だと思います(╹◡╹)

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 当初、海自東音、ラン=ビウエとシンガポールの3部隊合同演奏で始まりますが、やがて左右の袖から逐次出演全音楽隊が集まって、感動の合同演奏となりました。指揮は我らが樋口好雄隊長なのですが、途中で指揮台を離れ、演奏部隊と一緒に踊ったりして、本当に楽しい演奏でした。素晴らしい。

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 第3章(飛翔、昇りゆく挑戦)では、防衛大学校儀仗隊のファンシードリルと自衛太鼓が登場です。

 防衛大学校儀仗隊の演技では、これまでにない新しいフォーメーションがいくつも披露されました。最後の捧げ銃。これまで私は「回せ捧げ銃」と呼んでいると思うと書いてきましたが、今回、終演後に防大儀仗隊の4年生と話をする機会があり、聞いたところ「夢幻捧げ銃(むげんささげつつ)」と言う技だと言うことが判明しました。技の命名方法も、時代とともに変わるということですね。

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 そして太鼓です。こればかりは、私には語る言葉がありません。ただただ、会場で体感して!としか言いようがないんです。いくら動画で見ても、なんとなく迫力があるのはわかりますが、あの体を揺さぶるような音圧は、言葉では伝えようがありません。

 体が終始震え続けているのはもちろんのこと、座っているシートが振動し続けるものですから、お尻が痒くなるほどの勢いなんです。

 この太鼓は、各自衛隊の基地・駐屯地で、課業時間外に有志により自主的な活動として行われている、クラブ活動のようなものです。陸上自衛隊から12チーム、航空自衛隊から1チームの合計13チームが一堂に会して練習する機会など、本番前のほんの数回だけだと思いますが、これだけ息の合った演奏ができるのは、北部方面隊の高橋直保・陸曹長の指導の賜物だと思います。また、部隊は異なっても自衛官としての思いを共有する集団だからこそそのようなことができるんだと思います。

 音楽まつりのチケットは高倍率とはいえ、所詮確率の問題です。家族同士、友人同士で協力し合えば、実質倍率は下がります。是非、一度は会場で体感していただきたい演目の一つです。

 ところで、お気付きのように、海自からの太鼓チームの参加はありません。というか、海自には太鼓チームを持っている部隊がないんじゃないでしょうか。定かではありませんが、私の記憶にはありません。この辺り、軍種ごとの文化の違いが出ていて面白いなと思います。

 

 第4章(空の挑戦)では、初っ端、空自航空中央音楽隊と自衛太鼓との共演で「タタリ神」の力強い演奏が披露され、その後にナレーションでこの章の解説が行われると言う、異色の展開でした。これも一つの挑戦なのかもしれませんね。

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 そして、空自航空中央音楽隊の単独ドリル演奏が始まります。曲は「天空の城ラピュタ」。この曲も、自衛隊音楽隊が何度となく演奏してきた名曲ですが、アニメのテーマ自体、日本人の心の琴線を大きく揺さぶるものだからこそ、これらの劇中曲が年代を超え、時代を超えて広く愛されているのではないかと思います。みんなが幸せであって欲しいと願い、大いなるものへの献身を尊ぶという、長い歴史の中で日本人のDNAに組み込まれてきた思想を呼び覚ますような作品であり、テーマ曲であると思いますし、自衛隊の音楽隊が演奏することに大きな意義があるとも思います。

 第4章の締めくくりは「空の精鋭」。海自の「軍艦」と並ぶ、航空自衛隊のテーマ曲であり、瑞々しく心踊る行進曲ですよね。いいエンディングでした。

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 さて、今年の空自のドリル演技では、これまで定番だった、戦闘機の絵が描かれた特大のシートがステージ全体を覆いながら前から後ろに流れると言う演出がなくなりました。これは、空自のドリル演奏にも大きな変革がもたらされようとしている予兆なのかもしれません。来年以降の音楽まつりでの空自のドリル演奏には注目です。

 この章では、ゲストバンドとの共演はありませんでした。陸自、海自がそれぞれ2つづつのゲストバンドをアテンドした形での合同演奏を行ったのとは対照的です。構成上の事情があるのかもしれませんが、ちょっとバランスを欠いた感もありました。

 そして、陸自中音同様、自隊の歌姫の出演がなかったことも、「おや?」と思ったところです。陸自については「ミリタリズム」の追求ということで、雄々しいドリルを目指したという事情があるにせよ、空自については森田早貴さんの出番があってもよかったのかな、とは思います。

 限られた時間の中で各演目の持ち時間が細かく指定されていきますから、なかなか難しいのかも知れませんね。

 

 そして最終章です。

 事前情報もあり、自衛隊音楽隊の5人の歌姫が初めて同じステージに立つという画期的な場面に多くの方の期待が寄せられていましたね。目の前のステージで繰り広げられる5人の歌唱と身のこなしは、華やかで楽しく、どうして今まで実現しなかったかな、と思えるほど自然だし、5人の息もよく合っていました。きっと、歌姫サイドとしては宿願だったに違いありません。初めて三宅さん以外の歌姫が登場した頃、三宅さん自身が皆んなで共演したいという希望を言い続けたいと仰っていましたね。自衛隊音楽隊の一つの時代を画するステージだったと思います。入場する時の歌姫5人の歩調がバラバラだというのもまた、味があっていいんじゃないでしょうか。歩調が合ってしまうと、画的に面白みがなくなり、一人一人の個性が光る彼女たちの持ち味が死んでしまうからです。その辺をわかった上で、敢えて合わせてないんだと思います。自衛官って、放っておくと自然に歩調が合ってしまうものですから。

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 エンディングの最後に登場したのは、陸海空各一名のトランペット奏者。オープニングでも演奏された「消灯ラッパ」がここでも再び演奏されます。なぜ、今年は「消灯ラッパなのか」。なんとも謎めいた演出です。でも、オープニングは吹奏楽での華やかな展開、そしてエンディングでは3人での輪奏という静かな余韻を醸し出す演出が、印象に残ります。これもまた、新しい試みという位置付けなのかな?

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 あっという間の2時間です。「今年はいつもより短いの?」と思うくらい、時間が経つのが早く感じられ、「最終章」とのナレーションにとても驚きました。

 やはり、ライブで体感するというのは動画で楽しむのとは全く違います。カメラは会場の雰囲気全部を捉えることはできないんです。音もです。

 今回、プライベートで何の気兼ねもせずに初めて音楽まつりを観覧して思うことは、管弦楽では表現できないであろう吹奏楽ならではのパフォーマンスの魅力です。技術を研ぎ澄ました吹奏楽オーケストラのアグレッシブな祭典を直接この目で見ることができたことは本当に幸せなことでした。

 今回会場入りする機会を逃した皆様も是非、諦めることなく会場に足を運ばれることをお勧めします。もちろんそのためには、頑張って応募することが必要ですが(╹◡╹)