あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

東京音楽隊の小田原チャリティ公演始末記

f:id:RetCapt1501:20180901110642j:plain

 ようやく本題に入ります(≧∀≦)

 会場の様子です。まだ開演まで1時間あるのに、会場内は照明が絞られた状態になっています。ステージ正面の「海上自衛隊東京音楽隊 東日本大震災復興支援チャリティコンサート あの日を忘れず、今も願う感動の和、復興の輪」という横断幕と、東京音楽隊の隊旗にスポットが当たっていましたので、「復興支援のともし灯」をイメージした演出なんだと思います。

f:id:RetCapt1501:20180910025626j:plain

 会場入り口で渡されたパンフレットを見てみましょう。

f:id:RetCapt1501:20180910030602j:plain

 第1部の最初に「軍艦」を持ってきました。俄然、アンコール曲が気になりはじめます。何を持ってくるんだろう。「祈り」と「花は咲く」は予想通りですし、期待が高まります。全般構成は、復興支援というキーワードに結びつく楽曲中心に、この演奏会のためによく練った上で編まれているようです。

 さて、13時開場で14時開演ということで、プレコンサートがあるんじゃないかとの斎藤さんの予想通り、13時20分、左袖からトロンボーンの沢田勝俊さん、ピアノの太田紗和子さん、そして、申し訳ありませんお名前は存じ上げないのですが、ユーフォニウム奏者の方が登場、13時40分までの20分にわたりトリオでのプレコンサートを催してくださいました。入場者が次々と自分の席を探しながら入場してくる、大変ざわついた状況ではありましたが、とても美しい調べで楽しませていただきました。

 プレコンサートが終わり、しばらくすると両袖から隊員の方々が繰り出し、ステージの最終的な設えを行いましたが、この時、ちょっと驚くことがありました。

 ステージに向かって左端に置かれたハープを、荒木美佳さんが、演奏定位置である一段高い台の上へ移動させたのですが、あの大きなハープを、ひょい、と事も無げに持ち上げて台の上に乗せたのでした。35kgもある楽器です。鍛えてますね(╹◡╹)

 ステージの設えが終わると、いつもと同じようにハープの荒木さん、コントラバスの岩田さんのチューニングが行われました。今回、荒木さんのチューニングが特に念入りで、開演の直前まで行われていました、ハープのソロパートが多いのかもしれません。

 開演は5分遅れの14時5分、まず総合司会を務める女性アナウンサーの方(せと みかさん)が口火を切られ、今回のチャリティコンサートの実行委員長である市川聡さんからご挨拶がありました。東日本大震災から7年が経過し、報道等で扱われることもほとんどなくなったけれど、特に放射線の影響でようやく復興に着手したばかりの地域もある。この演奏会が、そのような現実を再認識する機会になれば。というような趣旨でした。

 「それでは海上自衛隊東京音楽隊の皆さま、よろしくお願いいたします」の呼びかけに、両袖から隊員の皆さんが入場して来られました。左袖は藤沼直樹さん、右袖は目黒渚さんが先頭です。目黒さんのショートカットが、先日来話題になっていましたが、初めて拝見しました。髪が短くなって可愛らしい感じになったのだろうと単純に思っていましたが、なんと言うか、とてもエレガントな雰囲気です。

 皆さんが席につくと、左袖から、樋口隊長の登場です。大きな拍手に応えながら指揮台に上がり、いよいよ演奏が始まります。指揮台の上で、みんなの意識を集中させるためでしょうか、ちょっと間を置いてから両腕をすっと上げ、タクトが振り下ろされた瞬間、ステージ上の世界が一変します。演奏会の初っ端を飾る「軍艦」を聴くのは2度目ですが、コンサートマーチとしてこれほど盛り上がる楽曲もそうはないでしょう。

 手拍子なしの「軍艦」を、楽曲として十分堪能させていただきました。

 ここで、左袖から荒木美佳さんが登場、「改めまして、皆さまこんにちはー!」いつもの出だしです。荒木さんの元気なこの挨拶が、演奏会を引き締めると同時に会場に詰め掛けた聴衆の気分を高めてくれていると、いつも思います。

 さて、いつもなら演奏会の終盤に持ってくる「今、この時も、目の届きにくい海の上、空の上で、多くの海上自衛官が任務に就いております。この演奏会を通じて、海上自衛隊のことを身近に感じて頂けたら幸いです。」と言うメッセージが、このタイミングで出てきました。今回は広報演奏ではなく、あくまでチャリティイベントへの協力ということで、このメッセージを入れるタイミングもよくよく考えられたのだと思います。勿論、今回も、斎藤さんと一緒に、このメッセージへの共感の拍手を送り、会場の皆さまの賛同の呼応もいただきました。

 第1部2曲目は、「ネイビート・ラプソディー」。7月7日の川越での3自合同演奏会で初演された、東京音楽隊のオリジナル楽曲です。何度聴いても、なんとも格好の良い素晴らしい曲なのですが、聴くたびに違う印象を得るのは、多彩な音とメロディーで構成されているからなのでしょうか。聴く者の気持ち次第で様々な印象を得ることができる、そんな楽曲なのかもしれません。

 そして、3曲目、私が「悲願」とまで言い続けてきた「祈り」が演奏されるのです。

 荒木美佳さんがこの曲の紹介をされている後ろを、左袖からステージ中央に向かって、三宅由佳莉さんが静々と歩を進めます。因みに、今回の演奏会での東京音楽隊の皆さんの服装は、定期演奏会で着用される、東京音楽隊限定のタキシードタイプの試作演奏服でした。

 スタンドマイクの前に立つ三宅由佳莉さん。私の席の真正面です。5列目席ですが、1列目のシートはありませんので、実質4列目。三宅さんの表情も、仕草もよくわかります。演奏会で、この特別な曲を歌うのは約2年ぶりですから、いつも以上に緊張されていたのではないでしょうか。右手の指は体側に沿ってまっすぐに伸びていましたが、左手はぎゅっとスカートの生地を握っているように見えました。

 太田紗和子さんのピアノが奏でられます。あ、今回はショートバージョンです。考えてみれば、フルバージョンなら三宅さんの登場はもっと後ですもんね。

 いつも思うことがあります。三宅さんの歌が始まるまで、期待で一杯なのですが、歌い出しで、必ず期待をはるかに超えた衝撃を受けます。

 夢にまで見た「祈り」の生演奏です。いつも動画で聴く「祈り」より、少しだけゆっくりした演奏で、一つ一つの歌詞を丁寧に噛みしめるような、そんな歌い方でした。そして、これまでにないような表情の豊かさ、「強く生きていこう」で見せた目力の凄み、この歌は、三宅さんとともに成長し続けるんだ。そう感じました。今回の「祈り」は、30代になって初めての演奏会での披露だと思います。これまでの「祈り」に少しだけ大人のテイストを加味した、そんな仕上がりを感じました。何しろ、初めて聴くことができた「祈り」ですので、見当違いな印象かもしれませんが、私にはそう感じられました。私の視界内でも何人かの方が、涙を拭っておられましたが、本当に心に響く素晴らしい演奏でした。

 4曲目は、「ゆりかごのうた」です。昨年リリースされた「SING JAPAN」にも収録されていますが、誰もが知る子守唄ですね。この歌を歌われる三宅由佳莉さんは、慈愛に溢れる聖母のような表情で、その人柄がそのまま歌声に乗って、聴くものの心に届きます。なんでも歌えるだけじゃなく、どんな歌にもご自分が解釈された歌の真髄をしっかりと持って歌うので、メッセージがきちんと届くのでしょう。素晴らしい「ゆりかご」でした。

 第1部のラストは「ドラクエ・セレクション」、最初にドラゴンクエストが世に出た時、まだ30歳前後だった私も、このゲームに熱中しました。それまでのゲームとは全く異なる世界観、冒険に旅立つ勇気や大切なものを失う悲しみなど、なんてドラマチックなゲームなんだろうと思いました。でも、それらの感情を引き出してくれたのが、すぎやまこういちさんが手がけた楽曲の数々だと思います。

 今回のプログラムで、この素晴らしいRPGの楽曲を、東京音楽隊の演奏で聴くことができたことに感動しました。

 

 ここで15分間の休憩に入ります。

 

 第2部のトップは、「キボウノカゼ」。この曲は、2013年に福田洋介さんが、復興をテーマに創られた曲で、とても元気な勢いのある楽曲です。第2部の初っ端を盛り上げてくれます。

 引き続く2曲目ですが、「銀河鉄道999」。この曲は、過去にも色々な演奏会で披露されてきましたが、「宇宙戦艦ヤマト」に比べると、演奏頻度は低かったかかもしれません。ボーカルは、言わずと知れた川上良司さんです。7月1日で海曹長に昇任された川上さんですが、今年に入ってからボーカル出演がないなぁと感じていたところ、最近またステージ上で歌声を聴く機会が増え、安堵しているところです。

 川上さんのボーカルと、三宅由佳莉さんのコーラス+ハモりで演奏された、ちょっと哀調を帯びたこの歌、いいものです。

 3曲目は、ディズニーナンバーから「星に願いを」。この曲は、神奈川県出身のクラリネット奏者、清水恭子さんによるバスクラリネットをフィーチャーした演奏となりました。清水さんは、今年のドリフターズメドレーでは「ヒゲダンス」などでコメディブレイクもされてますが、やはり一流の演奏家ですよね。この素敵な曲を、バスクラリネットの重厚な音色で織り上げます。清水さんのソロ、素敵でした。

 4曲目、は「シング・シング・シング」のメレンゲバージョン。これは今年の西日本公演や人見記念講堂でも披露されました。実に楽しい楽曲なのですが、この曲が始まる前の荒木さんの紹介が面白かったです。

 一通り曲の紹介をした最後に「魅惑のコーラスもお楽しみください」と、三宅さんとのご自分のコーラスを紹介するところに、茶目っ気を感じさせますね。「自分で言うな!」と、斎藤さんと盛り上がりました。

 いやほんと、自分で言っても構わないくらい、魅惑のコーラスであることは間違い無いです。バンドの演奏自体がとてもカッコよく、思わず体が動き出しそうになるのですが、お二人のコーラスの、絶妙な存在感は、このプログラムの肝だと思います。二人でスイングしながらの、コーラスなのか、相の手なのか、不思議な世界。満面の笑顔でダンスする姿が印象的です。

 5曲目に披露されたのは、「カントリー・ロード」。元々は、米国のジョン・デンバーさんが、1971年に歌って全米でも日本でも大ヒットした、邦題「故郷に帰りたい」という曲です。ジブリ作品「耳をすませば」の挿入歌、そしてエンディングテーマとして使われたため、今ではその印象の方が強いかも知れませんね。

 この曲を紹介する荒木さんが、英語の歌詞の部分を引用して「Country road, take me home」と言った際の発音が素晴らしかったのですが、コンサートマスターの横野さんが、荒木さんの方を振り返り、満面の笑顔になって「やるな」と言う表情。そして樋口隊長と目を合わせ、二人して右手で口から言葉が出るジェスチャーをしながら「発音がいいな」と言う無言のやり取りをしているのが微笑ましかったです。

 横野さんは、ステージ上でのそういった小ネタをきちんと拾って、会場に向けてアピーるするのがとても上手だと思います。まだ、会場の方が横野さんのメッセージを受け取って反応する準備ができていない段階ですけど、いずれ横野さんのアピールで会場が沸くようなシーンが見られるようになると思いました。

 6曲目は、復興支援ソングとして創られた「花は咲く」でした。この歌も、三宅由佳莉さんが歌われましたが、配布されたパンフレットの裏表紙に歌詞が書かれているので、「会場の皆さんもどうかご一緒にどうぞ」という荒木さんの紹介がありました。

 歌い出しでは、みなさん、三宅さんの歌を聴きたいものですから、ほとんど歌声は聞こえませんでしたが、少しづつ会場の歌声も聞こえ始めます。そして最後の方のリフレインのパートで楽器演奏がピタリと止まり、三宅さんのア・カペラと会場の合唱が演出されました。三宅さんと一緒に歌っていることを実感できる、とても素晴らしい演出だと思います。そして、最後にまた楽器演奏が入り、この素敵な曲を締めくくります。とても良い思い出になりました。

 最後の曲は、ディズニーランドの人気アトラクション「イッツ・ア・スモール・ワールド」のテーマ曲「小さな世界」です。心踊るようなこの曲を、川上良司さんと三宅由佳莉さんのボーカルで披露されました。楽しく、ワクワクする演奏とデュエットでした。この演奏中、川上さんが舞台左端へ、そして三宅さんは右端へ移動し、そこから中央に向かって少しづつ近づいて行きます。そして、中央で並んで立つお二人は、時折向き合って笑顔を交わし合います。とても素敵な演出ですが、ひょっとして、美女と野獣のパロディでは? と考えると、ちょっと楽しくなりました。

 東京音楽隊の演出は、どの曲も本当に楽しめるように工夫されていて、いつも感心させられますね。本当に素晴らしいプログラムでした。

 樋口隊長が喝采に送られながら左袖にはけて行かれます。鳴り止まない拍手に引き続きアンコールと行くのが通常の流れですが、ここで実行委員長からの花束贈呈が入ります。再びステージに姿を表した隊長に花束が贈呈され、会場は拍手喝采に包まれました。

 荒木美佳さんが「万雷の拍手にお応えして、もう1曲お送りします」として紹介されたのが、東日本大震災の後、日本の復興を祈って、英国の作曲家フィリップ・スパーク氏から贈られた「陽はまた昇る」でした。

 震災に打ちのめされた日本が、再び活力を取り戻し、元の姿、いや、より生き生きとした力強い姿に蘇ることを願い、信じて書かれた曲なのだと言うことがよくわかる、勇気の湧いてくる楽曲です。素晴らしい演奏でした。

 樋口隊長は再び左袖へ、でも鳴り止まない拍手。荒木美佳さんが登場し、「盛大な拍手ありがとうございます、それでは、本当に、これが最後の曲です」と「本当に」に力を込めて言うものですから、会場は大爆笑でした。

 締めくくりの曲は、なんと「ラデッキー行進曲」! ヨハン・シュトラウスの作品で、ウィーンフィル管弦楽団ニューイヤーコンサートにおけるアンコール最終曲目として定着しているこの行進曲。

 荒木美佳さんが、「それではお贈りします、ラデッキー行進曲!」と紹介されただけで、鳥肌が立つような感動を覚えました。東京音楽隊の演奏で、この曲が聴けるなんて、なんて幸運なんだろう!

 出だしで気持ちを持って行かれるところが、「軍艦」ととてもよく似ていると思います。素晴らしい曲の素晴らしい演奏で最後を締めくくっていただき、大満足の演奏会でした。斎藤さんとも「ラデッキー行進曲にはやられましたね」と話しながら会場からロビーに出ると、端の方で、スタッフの方と談笑しておられる樋口隊長を発見、演奏の御礼をさせていただきました。いつも朗らかな対応をしてくださいますね。

 さて、演奏会場を後に、斎藤さんと連れ立って駅まで徒歩で向かいます。

 会場の脇には東京音楽隊の楽器運搬車が止められていますが、あ、後部のカーゴドアが開かれている。楽器積載の準備が進められているようです。

 思わず、近寄り内部の写真をパチリ。基本的には普通のカーゴスペースですが、天井に照明がつけられているのは、積み下ろしに細心の注意が必要だからなのでしょうし、横壁にフックベルトのようなものが見えるのは、楽器を固縛するための設えなのかもしれません。なかなか興味深いものを見せていただきました。

f:id:RetCapt1501:20180910061426j:plain

 この撮影をした直後、斎藤さんが「そこに川上さんがいるよ」と言うので、ふと目を向けると、目の前に私服に身を包んだ川上さんが、積載の段取りのために電話での連絡調整をされていました。さっきまで演奏服装だったのに、切り替えが早いと言うか、テキパキやらなければ東京音楽隊の演奏活動は成り立たないと言うことなのでしょう。

 改めて、隊員の皆さんの、ステージ上ではなかなかわからない姿に接し、素晴らしい演奏への感謝の気持ちと、今後もますます応援していこうと言う気持ちを新たにした次第です。

 

 以上、報告でした。演奏会等の様子が少しでも伝われば幸いです。