先日の記事で取り上げたとおり、一昨日から本日までの3日間、東京音楽隊の東北遠征が行われています。
東京音楽隊による東北遠征は、これまで何度も行われていますし、特に東日本大震災後には、復興支援・復興祈念のため、頻回に同地を訪れ、たくさんの方々の前で演奏を披露されました。
2013年の6月8日(金)から19日(水)にかけて行われた巡回演奏も、復興祈念というテーマに沿った大遠征でした。
中央であれ、地方であれ、ホール内での撮影は原則禁止されていますので、演奏の様子を伝える動画はほとんど公開されていません。
でも、2013年の東北大遠征については、「海上自衛隊東京音楽隊channel」さんが、ありがたいことにいくつかの動画を残してくださっています。
特に、6月15日(土)に行われた遠野でのライブは、演奏会の様子が、ほぼフルで楽しめる数少ない動画の一つです。
私も、この動画から4曲ほど、単曲仕立ての動画を編集させていただきましたし、それらに関する記事もいくつか書きました。
でも、この当時、会場に詰め掛けたお客様たちの一番の関心は、何と言っても、三宅由佳莉さんが歌う「祈り」だったに違いありません。
遠野ライブでは、アンコールに応えてこの曲が演奏されました。
コンサートホールでの演奏会ですから、音響も良く、照明による効果も十分に活かしながら、荒木美佳さんのナレーションからして、すでに物語のプロローグのような趣を漂わせ、太田紗和子さんのピアノと岩田有可里さんのコントラバスによるレクイエムから始まる演奏が、視覚と聴覚の双方から心に染み入る素晴らしい仕上がりを見せてくれています。三宅由佳莉さんが命を注ぎ込んで練り磨いてこられたこの歌が、遠野の皆さんの一つ一つの心の奥にまで届いているのが良く分かります。
さて、この遠野公演の前日、6月14日(金)には、同じ岩手県の宮古市での公演が行われました。ご存知のとおり、宮古市は、先の震災において津波の直撃により壊滅的な被害を受けたところです。震災から2年余りのこの時点では、未だ震災の深い爪痕が、街にも、人々の心にも生々しい形で残っていた筈です。途方もない被害からの復興途上にあった宮古市において、設備の整ったコンサートホールでの演奏会など望むべくもないことだったでしょう。
演奏会場となったのは、宮古市民総合体育館シーアリーナです。宮古市の中でもやや内陸部に位置していたため、津波の被害を免れ、震災後は、救助活動にあたった自衛隊などの部隊の宿営地として、また被災者の避難所として活用された施設でもあります。言い換えれば、自衛隊と被災者の心の交点とも言うべき施設であり、東京音楽隊が被災者への慰問演奏を行った思い出の地でもあります。その意味で、復興祈念演奏会の会場として、これほど相応しい施設はないのかも知れません。
とは言え、未だ心に深い傷を残す宮古の皆さんを少しでも癒し、応援するメッセージを音楽で届けようとする東京音楽隊にとっては、大変厳しい条件だったと言わざるを得ません。
でも、そのような逆境を逆手に、気迫に満ちた演奏を繰り出すのが東京音楽隊であることは、先日の空席だらけの人見記念講堂で、却って迫力の演奏とパフォーマンスを見せてくれたことからも良く分かります。
シーアリーナで演奏された「祈り」の動画です。東音cnannelさんの元動画は、音量が十分ではないため、ピアノとコントラバスによるレクイエム部分が聴き取り辛いのが残念だと思っていましたので、この際、前半を中心に音量を増し、画角を少し小さめにした動画にリメイクしてみました。
太田紗和子さんのピアノと岩田有可里さんのコントラバスによるレクイエムが静かに奏でられ始めると、他の演奏者は微動だにせず、静寂感を醸し出します。この間動きがあったのはMC席からハープ席に入った荒木さんと、レクイエム演奏を終え、コントラバスを寝かせてから本曲演奏のため、ベースギター席に移動した岩田さんだけです。
こうして、設備や器材に頼れない部分を、自分たちができる精一杯の努力で演出しているのですね。
そして、2番を歌いながら、三宅由佳莉さんは静かに後ろに向きなおり、バックステージ席の観客にも視線を配りながらゆっくり身を翻して行きます。
間奏に入り、河邉隊長の全身を使っての大きな指揮に導かれた演奏の力強さもまた際立っているように感じます。
そして、3番の最後、サビのリフレインでは、歌詞の一部を入れ替えて気持ちを伝えます。
本来、リフレインでは、
いつも希望、夢、未来、祈ってる
君は希望、夢、未来、祈ってる
と歌います。ところが、この動画では、
いつも希望、夢、未来、祈ってる
ずっと希望、夢、未来、祈ってる
と歌われています。しかも、ここに万感の思いを込めた力強い歌い方です。
聞いた瞬間、目が覚めるような、鮮やかな感動がこみ上げました。
わざわざ置き換えられた、この「ずっと」と言う短い言葉に、どれだけの思いが込められているのかが瞬時に感じ取れたからです。
この会場にいらした皆さんも、きっと同じだと思います。
この歌詞の置き換えが、予め予定されていたものなのか、三宅由佳莉さんの心から迸り出たアドリブなのかは分かりませんし、そんなことは分かる必要もないでしょう。
東京音楽隊の思いの全てがこの一言に集約されていることが理解できればいいのだと思います。
終曲後の拍手の様子は動画の音だけでは分かり辛いのですが、バックステージ席の皆さんの拍手の仕方を見れば、その感動の大きさがよく分かります。
この動画は、決して良い条件での録画ではありませんが、東京音楽隊らしい、そして三宅由佳莉さんらしい、心の伝えかたを余すところなく見せてくれる、私にとっては珠玉の一本なのです。