あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

三宅由佳莉さんの新たな使命

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 東京音楽隊は「使命」を帯びた演奏家集団であり、私たちが彼らの演奏や三宅由佳莉さんの歌を聴くことができるのは、広報演奏を通じ、海上自衛隊に対する国民の理解と支持の輪を広げ、もって我が国の防衛基盤の拡充を図ることが、彼らの重要な使命の一つであるからだということは、これまで何度も書いてきました。

 つまり、音楽隊の任務である①隊員の士気高揚のための演奏 ②儀式・式典における演奏 ③広報のための演奏 のうち③広報のための演奏がそれに当たります。

 

 このようにみた場合、そのどれにも当てはまらないように思える演奏活動があることにお気づきの方もおられるのではないでしょうか。

 そうです、2014年のオスロ・タトゥー、2016年のバーゼル・タトゥーでの演奏活動のことです。自衛隊音楽まつりに似たようなイベントですが、オスロは1週間、バーゼルは2週間と開催期間も長く、コンテンツについても市中パレードや子供たちと触れ合う日が設定されていたりと、野外での活動も含めた多彩なプログラムが充実しています。

 下の動画は、それぞれのタトゥーでの三宅由佳莉さんの歌唱にフォーカスして編集したものですが、元動画全体をご覧になりたい方は、それぞれのバナー下のリンクからどうぞ。十分楽しめる内容だと思います。

www.youtube.com

【音楽】 海上自衛隊 東京音楽隊 ノルウェー ミリタリー・タトゥー2014参加記録 - YouTube

 

www.youtube.com

Basel Tattoo 2016 - YouTube

 

 話を本筋に戻しますが、これら海外のイベントへの出演は、③広報のための演奏には当てはまりそうもありませんよね。何しろ、会場には、広報演奏の対象であるわが国民はほとんどいないわけですから。

 もちろん、上のような動画を通じて東京音楽隊の海外での活躍を目にすることで、これを誇りに思い、隊員の士気が上がったり、国民の間に海上自衛隊への関心が高まるという面はもちろんありますが、それはあくまでも付随的な効果です。

 これらの演奏活動の主な目的は「防衛交流」にあるのではないかと私は考えます。

 聞きなれない言葉かもしれませんが、防衛省では「防衛協力・交流」を、防衛力整備と並ぶ、我が国の安全保障政策の大きな柱の一つと捉え、外務省ともよく連携して様々な事業を展開しています。

 国の安全保障を全うするためには、充分な防衛力の整備は不可欠です。「まず、話し合いで」は当たり前ですが、「話し合いが大切なのであって、戦うことを前提とする軍事力など不要」というのは「火災予防が大切なのであって、火災が起きることを前提とした消防組織は不要」と言っているのと同じです。他の手段を持って代替不可能な防衛力=軍事力の整備は欠くことのできない要素です。

 とは言え、最終手段である軍事力など使わない方がいいに決まっています。ですから、そもそも争いが起きないような国際環境を整えることが大変重要です。そのような目的で推進されているのが「防衛協力・交流」事業なのです。

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 長年実績を積んできたPKOイラクの復興支援、ソマリア沖での海賊対処行動などのほか、二国間・多国間訓練への参加や主催、各国防衛当局者が一同に会しての国際会議やセミナー、また防衛大学校や各自衛隊の幹部学校への各国留学生の受け入れ、あるいは教官のクロス派遣など、人的交流も盛んに行われています。

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 このような活動を通じて、各国軍隊との間に信頼を醸成するとともに、国際的な安全保障上の問題には協力してこれに対処できる基盤の構築を図っているのです。防衛当局者は、誰よりも「話し合い」の大切さや「何を話し合うべきか」をよく理解していますし、だからこそ「具体的に」推進しているということです。漠然と「話し合いが大切」と唱えていても、何の足しにもなりません。

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  さて、海上自衛隊の音楽隊は、三宅由佳莉さんが登場する前から、世界各地で演奏活動を続けてきました。遠洋練習航海部隊(練習艦隊)に配属された臨時編成の音楽隊による寄港地での演奏会や市中パレードなど、ホスト国海軍との交流であると同時に、我が国をPRするという外交活動の一端でもあります。遠洋練習航海部隊は「日本国練習艦隊」として各国を訪問しています。

 また、東京音楽隊は、ウラジオストクで行われたロシア海軍創設記念式典での演奏なども行ってきました。

 しかしながら、先に紹介した二つのタトゥーへの出演は、類が違うと私は思います。時期的に考えても、明らかに三宅由佳莉さんという歌手が、国際的にも注目を集めた結果でしょう。防衛交流という枠で行われたにせよ、三宅由佳莉さんという類い稀なキャラクターを擁する東京音楽隊の魅力というものが、軍事交流の枠を超え、各国の国民レベルにまでその影響力を及ぼす可能性を示したイベントであったと感じています。

 記事タイトルにある「新たな使命」とはこのことを言っています。もちろん、今は部外者である私が、防衛省海上自衛隊がやろうとしていることを知るわけもありませんが、すでにそのような使命の一部を果たされているように思えますし、またその使命を担い得る力は十分に備わっていると思うからこそ、海上自衛官OBとしての期待も込めてこの記事を書くことにしました。

 嵐のような熱狂の時はすでに過ぎましたが、そのフォローアップがとても大切であると思っています。前回、拙い英文記事の前口上でも書きましたが、三宅由佳莉さんの動画に関心を持つ外国からのアクセスが一定数あることは、様々な国の方がコメントを残してくれていることでよくわかります。

 その機会を逃すことなく、三宅由佳莉さんのことを知ってもらい、海上自衛隊、そして日本への理解と親近感、さらには信頼へと発展することにわずかでも寄与できればと思います。草の根活動は、時間と手間の割りには成果がよく見えません。ですが、小さな種でも、長年にわたり地道に続けることで、大きな花が咲くことだってあるかもしれません。そんなことを思いながらこの記事を書いた次第です。

 お付き合いありがとうございました。