あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「第一戦速!」

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 海上自衛隊用語解説シリーズの続きです。

 今回のタイトルは「だいいっせんそく」と発音し、速力を指示する号令です。具体的には「せん」にアクセントを置き、「だいいっせんそーく!」と号令します。

 「戦速」とは文字通り「戦闘速力」のことです。

 護衛艦は、通常航海であれば、巡航速力(経済速力)の「原速(12ノット)」を主用し、状況により「半速(9ノット)」や「強速(15ノット)」を使います。

 でも、戦う艦ですから、戦闘モードに入れば、当然、燃費よりも機動力を重視し、「戦速」を使用するわけです。

 第一戦速は、数値で表せば18ノット(約33km/h)ですから、それほど速い速力ではありませんが、巡航速力である原速(げんそく)の12ノット(約22.2km/h)に比べれば、5割増しです。

 「戦速」は第一戦速、第二戦速(だいふたせんそく)、第三戦速・・・と、3ノットづつ速くなります。そして、その艦の全速力を「最大戦速」と言います。 

 某艦が最大戦速を出す際の動画がありましたので、興味がある方はご覧ください。

 艦内マイクで「現在約60kmで航行中」とアナウンスが入っていますので、32ノット強の速力ということになります。

www.youtube.com

 第一戦速とはどういうものか、お分りいただけたでしょうか。

 さて、先回「観艦式について」という記事で、1970年代に世界を襲ったオイルショックによる原油価格の高騰により、海上自衛隊の燃料使用量も圧迫を受けるようになり、それまで毎年開催していた観艦式が、不定期開催に追い込まれたことをご紹介しました。

retcapt1501.hatenablog.com

 私が防衛大学校に入校したのは、オイルショック後ですが、先輩方の話によると、オイルショック前までは、海上自衛隊の艦艇が監視や訓練に使用する燃料は、結構ふんだんに調達されていましたので、各艦長は、燃料の告逹量をあまり考慮する必要はなかったそうです。

 ですから、当時は、長期にわたる洋上での訓練が終了すると、艦長は「だいいっせんそーく!」と号令をかけ、一刻も早く上陸したいであろう乗員の士気を高めたそうです。

 しかしそれは、単に「早く母港に帰る」ということだけではなく、艦長が戦闘速力の号令をかけることで乗員の士気が高揚し、やる気が漲るという心身の作用を習慣化するという意義もあったと思います。

 ところが、燃費を常に考慮しながら艦を運用しなければならない現代の艦長にとって、残念ながら、これを統率のツールとして使うことは容易ではないでしょう。

 精強な部隊は、最新鋭の兵器と優秀な隊員だけでは成立しません。隊員の士気を最大限に高揚させる、指揮官の統率力がものを言います。

 その意味で、「だいいっせんそーく!」は、単なる速力号令ではないのです。