海上自衛隊用語の続きです。
今回は「しんごうようい」、もう少しリアルに表現すれば「しんごーよーい」
これは、用語と言うか、号令です。
艦船の通信手段には色々なものがあります。もちろん、現在では無線通信がメインで、軍艦も商船も、ほとんどの通信活動が無線により行われています。
この他に、手旗信号や発光信号などがありますね。手旗は、ご存知の通り右手に赤旗、左手に白旗を持って行う視覚信号です。そして発光信号は、読んで字のごとく、光の長符と短符を組み合わせて文字を表します。長符と短符の組み合わせ要領は「モールス信号」と同じです。
そして、もう一つの大切な通信方法が、国際信号旗です。
中世のヨーロッパで使われ始め、19世紀の半ば頃までに、現在の国際信号の要領が概ね成立しました。
下の図が、アルファベットを表す国際信号旗の一覧です。NATOコードは既に別記事でご紹介したとおりです。
これらの信号旗は、単独で、あるいは組み合わせにより、様々なメッセージを伝えることができます。どの組み合わせの時にどんなメッセージを意味するのかは、「国際信号書」という、世界共通の信号書に書かれていますので、洋上で出会った船同士は、母国語が何であるかに関わらず、この国際信号によって意思疎通を図ることができるわけです。プリセットのメッセージに限られますが、かなりの範囲をカバーしていますので、洋上の世界語と言っても良いでしょう。
ジブリアニメ「コクリコ坂から」で、重要な役割を果たしたのが国際信号の「UW」でしたね。ヒロインの海(うみ)が、海難で亡くなった船乗りの父へのメッセージとして毎朝掲げたこの信号の意味は「航海の安全を祈る」というものです。泣けます。
下の写真が「UW」です、上の一覧表と見比べればわかりますね。
この国際信号は、商船も軍艦も使いますが、軍艦の場合、この国際信号旗を用いた海軍独自の信号書(通常秘密文書です)を作り、作戦通信にも使用します。
ですから、軍艦が作戦通信を行っているのか、国際信号を行っているのかを区別する必要があります。
その識別旗として用いられるのが「回答旗」、通常「アンサー」と呼ばれる旗です。
回答旗というだけあって、本来は相手からの信号を解読したことを伝えるために掲げる旗ですが、軍艦が国際信号書を用いているという目印としても使われるのです。
軍艦が国際信号書を使って通信する場合には、この「アンサー」の次に1文字分のスペースを開けて国際信号を掲げます。上の右側の図がそうです。
1文字分のスペースを空けるため、旗と旗の間に索を一本繋ぎます。この索のことを「タック」と呼びます。「ひっぱる」じゃないです。
航行中、行き合った船に対し、艦長が「航海の安全を祈る」というメッセージを送りたいと思ったら、この旗を掲げるよう指示を出します。
信号員は、直ちに艦橋の裏手にある旗甲板に向かい、「アンサー・タック・ユニフォーム・ウィスキー」の旗を信号長の号令で掲げるのですが、最初にかかる号令が、タイトルにある「信号よーい」というわけです。
信号旗を掲げる短い動画がありましたので、参考までにご覧ください。
今回ご紹介したのは、アルファベッドだけでしたが、数字を表す旗もありますし、NATO加盟国海軍が使用する専用の旗もかなりあります。NATOの旗については海上自衛隊も使用していますので、これらはまた機会があればご紹介したいと思います。
さて、この国際信号旗ですが、別の用途で使われることもあります。
満艦飾(full dress ship)です。記念日や祝賀行事の際、0800(まるはちまるまる)の自衛艦旗掲揚と同時に、艦首側と艦尾側の両方から中央マストに向かって国際信号旗が掲揚されていきます。
これらの旗は、適当に繋いでいるわけではありません。繋ぐ順番は、規則できちんと決まっていますので、どの艦を見ても、順番は一緒です。ただ、艦の大きさによって揚旗線の長さが違うので、旗の枚数はまちまちになります。
満艦飾を行った日の夕刻は、電灯艦飾(イルミネーション)を行います。
さて、今回は、国際信号旗についてご紹介しました。
港を訪ねたりすると、船だけでなく、岸壁近くに国際信号旗が掲げられていることもありますよね。また、マリンテイストのお店などに行くと、国際信号旗があしらわれたデザインの装飾品がたくさん置かれていたりもします。
アルファベットだけでも覚えておくと、楽しみが増えるのではないでしょうか。関心のある方は、是非覚えてみてください。