あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「教練火災、場所は4L」

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 遠洋練習航海の続きです。併せて、海上自衛隊用語も解説します。

 今回のタイトルは「きょうれんかさい、ばしょはよんえる」と読んで下さい。

 ガラパゴス諸島沖を北西に進む艦隊の、次の目的地は、米国西海岸のロサンゼルスでです。しばらく、慣れないスペイン語圏への訪問が続いていたので、英語圏を訪れるのが待ち遠しい感じでした。

 ところで、艦隊は、寄港地から寄港地へ向かう間、ただ航海をしている訳ではありません。毎日毎日、様々な訓練を行いながら航行を続けています。

 訓練の内容は本当に多岐に渡りますが、最も回数をこなしたのは防火防水訓練ではなかったかと思います。防火防水と言いましたが、防火訓練と防水訓練は通常別々に行います。

 実習幹部は、右舷と左舷の二つのグループに分けられており、訓練や上陸その他の区分は、基本的にこの所属舷で管理されていました。

 右舷・左舷の呼び方は、「みぎげん」「ひだりげん」であって、「うげん」「さげん」とは言いません。大きな騒音の中で聞き間違いのないようにするためだと理解しています。

 さて、実習幹部が訓練を行う際、いずれか片舷が実習直、他方舷が見学直となり、主観的、客観的の両面から訓練を体験するようになっています。

 ある日、午前2時から4時までの艦橋ワッチ(当直)後に、第4居住区の自分のベッド(三段ベッドの一番下でした)に入りました。深夜ワッチがあっても、6時には起床ラッパで起こされます。ところが、この日相当疲れていた私は、あのけたたましいラッパにも目を覚ますことなく、泥のように寝ていたのでした。

 その時、「教練火災、場所は4L」の艦内マイクではっと目が覚めました。「え?教練火災?」腕時計を見ると、既に8時半をすぎていました。「しまった、訓練始まってるじゃん。え?しかも4L?」そうなんです、4L、すなわち私が寝ている第4居住区がこの日の火災現場に指定されたのです。防火訓練が行われるという予定はわかっていますが、どこが火災現場なのかは、艦内マイクで初めて知らされるのです。

 いつも戦闘服を着たまま寝ていますから、すぐにベッドから飛び出して訓練に参加しようとしたその時、防火服に身を包み、消火用の太いホースを抱えた実習直の連中が一斉に居住区内に入ってきました。そして訓練指導官が次々と示す現場の想定に対応しているのですが、それが私のベッドの目の前なのです。

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 今更出るに出られませんので、ベッドの中から寝転んだまま楽な姿勢で見学させてもらいました。

 たまたま見学直だったので、笑い話ですみましたが、面目ない話です。

 ところで、艦内マイクで使われた「教練」は、実際の事態ではなく訓練だよ、ということを意味しています。現代の日本ではあまり馴染みのない言葉ですよね、これも帝国海軍以来の用後です。陸自、空自では「訓練」と言っています。

 色々な訓練で使われています「教練対空戦闘用意!」など、戦闘訓練でも同じです。

 そして「4L」は第4居住区のことだと言いました。4LのLはリビングクォーターの頭文字です。居住区とは、艦艇乗員の寝室兼リビングルーム的なスペースです。艦内で最もプライベートな雰囲気がある場所ですが、何しろ蚕棚のような狭い3段ベッドがぎっしり並んでいて、隅の方に小さなテーブルと椅子が数脚あるだけですので、リビングルームは言い過ぎでしょうか?

(※現在の護衛艦のベッドは、この写真よりかなり改善されています)

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