あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「作業員が乗艦する、光金物隠せ」

 遠洋練習航海の続きです。

 メキシコのベラクルスを出港した艦隊は、ユカタン半島を回り込むようにして南下し、パナマ運河を通峡して太平洋に戻ります。

 往路にも通峡したパナマ運河

 今回は、この有名な運河での出来事をいくつか。

 パナマ運河は、太平洋と大西洋(メキシコ湾)を繋ぐ夢の架け橋ともいうべき存在です。大変な難工事の末100年以上も前に開通した運河ですが、これがなければ、太平洋から大西洋側に抜けるには、南米大陸の南端を通るほかないわけですから、世界の物流の効率的な運用に計り知れない貢献をしてきた運河だと思います。

 下の地図では、北が左斜め上方向を指しているので感覚的に少し分かりづらいですが、左上が大西洋、右下が太平洋です。そうなんです、パナマ運河は南北に延びる運河なんです。

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 さて、この運河ですが、上の断面図を見てわかるように、運河の一部として活用している湖の水面が、太平洋・大西洋よりもかなり高い位置にあるため、通過するには、水門の開け閉めと注排水により水面の高さをコントロールできるドック式の階段を登ったり降りたりしなければなりません。

 ↓こんな感じです。

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 見てのとおり、水路がとても狭いため、このドック式の階段の中では、船の前後左右、4方向から牽引車(電気機関車)にワイヤで接続・固定し、安全に前進させる方法がとられています。こんな狭い水路で横風を受ければ、船は風下側の壁に押し付けられて進めなくなってしまうからです。

 ↓こんな感じです。

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 水門の写真を見ていただければ分かるとおり、機関車は途中急勾配の坂を登りながら船舶を牽引するわけですから、ものすごい牽引力が必要になりますが、川崎重工社製のこの機関車は、十分その要求に応えています。

 さて、我が艦隊もこのパナマ運河を二度通過しました。太平洋から大西洋に抜けるとき、そして再び太平洋へと戻るときです。

 最初に太平洋側から運河に入る際、牽引機関車とのワイヤ接続を行なうため、現地作業員が交通艇から乗り込むことになっていると聞いていました。

 作業員を乗せた交通艇が近づいてくると、艦内に「作業員が乗艦する。光金物隠せ」という奇妙な号令がかかりました。「ヒカリカナモノカクセ」?

 聞けば、パナマ運河を通峡する度に、艦上にある金目のもの(少なくともそう見えるもの)が持ち去られるのだそうです。 

 「光金物(ひかりかなもの)」とは、艦上でピカピカに光っている金属部分のことです。例えば、消防設備のノズルの部分などは、真鍮製ですが、海上自衛隊では、常日頃からピカピカに磨き上げていますので「光金物」と呼びます。

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 しかし、確かに金色に輝いてはいますが、これを金だと思うバカはいないと思いますし、これを持ち去るって、どうやってバレずに持っていけるの?と思いました。

 いずれにせよ、トラブルのもとは隠すに越したことはありません。これらに布を被せて隠しました。

 さて、いよいよ作業員が乗り組んできました。

 一人の作業員が、私の方に近づき、実に堂々とした態度で「ヘイ ジャパン!」と言ったかと思うと、作業衣の胸ポケットから、きちんと折りたたんだ日本製インスタントラーメンの袋を取り出し、ジェスチャで、これをよこせと要求してきました。

 カチンときた私は、日本語で「ふざけるな!物乞いするのに、偉そうにヘイとか言ってんじゃねー!さっさと仕事しろ!」と、内心思いながら、静かに「ノー」と言ってその場を離れました。

 後から聞いた話ですが、日本の遠洋漁業船がパナマのバルボアなどに寄港すると、気前よく大金を使ってくれるので、皆、日本の船を見ると何かを期待してしまうのだということでした。

 なるほどね。

 因みに、「あさぐも」の光金物は無事でした(^^)

  長くなりましたので、続きは次回に…