あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「ウルトラ・シエテ!」

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映画「ベラクルス」のポスター

 

 先回に引き続き、遠洋練習航海での印象深い思い出です。今更ながら思い出すと、遠洋航海では興味深い出来事がたくさんありましたので、しばらくの間、断続的なシリーズで書いてみたいと思います。

 ニューオリンズを出港した艦隊は、メキシコ湾を南下し、ユカタン半島の付け根に近い、ベラクルスという港に入港しました。

 この街は、メキシコ有数のリゾート地ですが、過去には米国やフランスとの戦争で占領された歴史があり、街を守るために戦った英雄たちを顕彰する記念碑が街の中央にあります。我が艦隊司令官はここに献花をされましたが、音楽隊による吹奏が儀式に厳粛な雰囲気を添えました。

 音楽隊は、このように寄港先での儀式や、市民パレードへの参加など、入港中も大忙しです。今思い出しましたが、以前紹介したニューヨークの帰港中には、練習艦隊の乗員が、シェア・スタジアムで行われたニューヨークメッツの公式戦に招待され、司令官が始球式を行いました。その祭、音楽隊は試合前のグラウンド上で演奏を披露し、スタジアムを埋める大観衆からやんやの喝采を浴びていました。

 このように、遠洋航海部隊は、実習幹部の教育訓練のみならず、訪問各国との友好親善のための活動を精力的に行っています。

 さて、ベラクルスです。

 私が同期とともに街に繰り出そうと岸壁に降り立つと、見物に来ていた現地のメキシコ人一家が近づいてきました。制服姿の私たちに興味があったのでしょう。10歳くらいの男の子と、7〜8歳くらいの双子の姉妹、それにご両親でした。驚いたことに、真っ白いワンピースを着た、天使のように可愛い双子ちゃんたちが私と同期に抱きついてきたのです。変な抱きつき方じゃないですよ。まるでぬいぐるみを抱きしめるような、愛おしく思ってくれてるのがものすごくわかるような感じです。ぴったりと張り付いて離れないので戸惑いましたが、ご両親もお兄ちゃんもニコニコしているのを見ると、なんだかとても幸せな気持ちになりました。

 お父さんは英語ができたので、いろいろとお話をし、天使ちゃんたちが、夕方にまた会いに来たいと言っているというので、お互いの都合を確認して待ち合わせ時刻を決めました。確か18時だったと思います。

 私たちの帰艦時刻は23時か24時でしたから、我々は上陸の途中で一旦埠頭に戻ってこなければならないわけです。ですから、せっかくの訪問地なのにあまり遠出をせず、約束の時間に余裕をもって、戻ってきました。

 ところがです、18時はおろか、19時になっても、全く現れる気配がありません。「なんなんだ。向こうから言い出したことなのに…」、同期と顔を見合わせ、再び夜の街へ繰り出しました。後で聞いたところでは、メキシコでそんな口約束を守る奴はいない、というのですが、「なにそれ?」ですよね。「破るために約束するわけ?意味がわからない」。それにしても、ほんとに可愛い天使ちゃんたちでした。

 ベラクルスでは、我々日本艦隊は大人気でした。街を歩くと子供達が大勢駆け寄ってきます。口々に「ハポンハポン!」「ウルトラ・シエテ!、ウルトラ・シエテ!」と叫びながら。ハポンスペイン語で日本のことですが、ウルトラ・シエテ?

 子供達は、伝わっていないことがわかると、一生懸命ジェスチャでアピールします。あ、「ウルトラ・セブン」ね。

 帰艦してから調べたところ、確かにスペイン語で「7」は「シエテ」でした。

 スペイン語も少し勉強しなきゃな、と思うと同時に、メキシコでウルトラ・セブンが大人気なのを知って、なんだか嬉しい気持ちにもなりました。

 今でこそ、日本のサブカル、ソフトパワーは世界を席巻していますが、当時はまだそんな認識もありませんでしたから、とても印象深く記憶に残っています。